住まいから働き方まで、今「コレクティブ」が求められる理由(わけ)  ~コレクティブハウジング全国大会リポート

 

居住者がダイニングルームなどを共有して運営することなどを通じて、血縁を超えて関わり合い支え合うことを目指した住まい方、コレクティブハウス。首都圏で約10年にわたってコレクティブハウスの企画・運営を手掛けてきたNPO法人コレクティブハウジング社(東京都千代田区、CHC)主催の「コレクティブハウジング全国大会」が10月8日(土)-10日(月祝)の3日間行われ、私は3日目のプログラムに参加しました。

 

3日目は、この「シェアする暮らしのポータルサイト」でこれまで発信した様々な事例を参加者の皆さんと改めて共有する場でした。この日のテーマを私流に解釈させていただくと、「住まい方にとどまらない、関わり合いと支え合いの可能性」。なぜこのような可能性について考えなければならなくなっているのか―。個人を活かし合う組織論を提唱する、元・日産自動車社員の舘岡康雄・静岡大学大学院教授が、基調講演「管理する組織から、個をいかしあうSHIEN(支援)社会へ」の中で明快に示して下さいました。 いわく、20世紀の社会を動かしてきたのは、過去を規範とする「リザルトパラダイム」だったけれども、21世紀の社会を動かしてゆくのは、刻々と動きながら相互の関係性を高める「プロセスパラダイム」になる、と。 会社組織に所属する、核家族を形成する―。20世紀は、豊かさを求めて際限なく「閉じて」いった歴史と言えるかもしれません。しかし、同質的な1つの会社や家族の中では解決できない現象が噴出しつつある21世紀にあって、これからはつながりや関係性が広がる方向に向かっていく。誰かが何かするのを観察しているだけでは物事が動かなく、インターネットなどを通じて誰もが何らかの形で物事に参加していくようになる。こうして集まった主体はそれぞれ多様なので、互いの関係性のルールが予め決まっていない。こうした環境下で求められる解は、「管理」ではなく、支え合う(SHIEN、支援)ことだと舘岡さんは言います。 では、「支え合う(SHIEN、支援)」っていったいどのようなことなのか。舘岡さんは「相手から支援してもらえるように相手を支援すること」と、「相手が第三者から支援してもらえるように相手を支援すること」が大切だとしています。日産とルノーという異文化を融合させ、日産復活劇を陰で支えたご経験を持つ館岡さん。「相手から支援してもらう」というのは利他性の文脈ではよく語られてきたことだと思いますが、「相手が第三者から支援してもらえるように動く」というのはとても新鮮で深淵。これから考えるテーマにしたいと思いました。

 

舘岡康雄先生、ご講演の様子

 

基調講演後のパネルディスカッション&プレゼンテーションには、舘岡さんが唱える「SHIEN(支援)マネジメント」を地で行くような、お互いの可能性を重ね合わせる場づくりの実践が集結しました。 トップバッターは、「コミュニティをつむぐ開かれた場の力」と題して、誰でも気軽に入って過ごせる交流の場、三田・芝の家ファシリテーターの坂倉杏介さんと、世田谷・経堂でコミュニティ居酒屋「さばの湯」を経営する須田泰成さんというお二人。日時を設けるイベントをあえてあまり打たない芝の家。坂倉さんの「設定した場は東京ではいくらでもある。『暇だから来る』みたいな場があってもいい。コミュニティってそういうものではないでしょうか」という言葉には、場づくりの基本動作を見ました。一方、落語会や被災地イベントなどほぼ毎日のようにイベント打つさばの湯の須田さんは「場の目的に貢献することを求められるケースは多いけど、『こんな人でも居ていいんだ!』と思える場が大切」と言います。素敵な包容力です。

 

芝の家・坂倉さんとさばの湯・須田さん。「掛け合い」というのがぴったりなセッション

 

お次は、「人を中心に置いたマネジメント」をテーマに、指揮者のいないオーケストラで知られる東京アカデミーオーケストラ(TAO)クラリネット奏者の室住淳一さんと、アートと自然を基盤に子どもの創造性を育むことを目指した「しぜんの国保育園」(東京都町田市)園長の斉藤紘良さん。オーケストラと保育園。一見何の縁もなさそうに見える両者に共通するのは、場を構成する一人ひとり(演奏家であり、子どもたちであり、保育士たちであり)が主役となる組織運営のあり方です。

 

普段はコンサルタントとしてお仕事する、TAOの室住さん

 

20年間の活動を通じて、曲選びから練習、演奏会の準備まですべてメンバー一人ひとりが担う運営手法を蓄積してきたTAO。その極意は、室住さんの「リーダーを置かないのではない。リーダーが複数いて、それぞれの局面でリーダーシップを発揮することで、組織が強くなるのではないか」という言葉に集約されているでしょう。しぜんの国保育園では、保育士は子どもたちの育ちの場での「ファシリテーター」であることを意識しているとのこと。「子どもには『こう育ちたい』いう意思があるはず。それと大人の『こう育って欲しい』という思いを摺り合わせることが大切。今まで、このことが少し見落とされてきたのではないか」(斉藤さん)-。子どもにとってもっとも大切な土台をつくるこの時期、大切にしたい視点です。

 

しぜんの国保育園・斉藤さんは、お隣の寺の2代目でありミュージシャンでもある

 

最後は、「コワーキングが拓く新しいワークスタイル」をテーマに、日本のコワーキングスペースの老舗的存在の一つ、パックス・コワーキングのチーフカタリスト・佐谷恭さんによるプレゼンテーション。フリーランスなどの形で独立して働く個人を中心に、オフィス環境を共有して相互にアイデアや情報を交換しながら相乗効果を生み出そうとするコワーキングという働き方について、ご紹介下さいました。基調講演の舘岡さんのお話にあった「プロセスパラダイム」に基づけば、1つのオフィスや個人のデスクで閉じられていた環境を開いていかないと満足な成果を得られないはず。コワーキングというのは、まさにプロセスパラダイム下で求められる働き方なのです。

 

Pax Coworkingの佐谷さん。交流する飲食店、コワーキングスペースときたら、次はぜひコレクティブハウスを~!!

 

*******

 

午後からは、住まいにとどまらない開かれたコミュニティの実践例が一堂に会した「シェアする暮らしフェア」。前出のPAX Coworkingのほか、以下の5つが参加してそれぞれの現状をシェアしてくれました。

 

・障がい者と健常者がともに暮らす家「ぱれっとの家 いこっと」
・地域の主婦らの手づくり料理でコミュニティをつなぐ「タウン・キッチン」
・持続可能な農的暮らしを目指すコハウジング「里山長屋暮らし」
・都会の中のコミュニティガーデン「たぬき村」
コレクティブハウジング社 「コレクティブハウス居住希望者の会」

 

「多様性」「食」「自然環境」-。いずれも、これからのコミュニティづくりに欠かせない視点ばかりです。

 

最後は、前日に行われたワーキンググループでの討議報告。「子育て」「高齢者」「働き方」「災害」など、コレクティブハウジングに関わる15のテーマで、参加者同士が今後の方向性について話し合った結果が、各グループから報告されました。会場は、ゼロから何かを生み出すために一人一人が積極的に関わったプロセスを見逃さないよう、聞き逃さないようにしようという雰囲気。今までのどのような集まりでも経験したことのない、温かい空気感がそこにはありました。

 

Collective(コレクティブ)というのは、「集まる」「蓄積する」という意味。解のない時代、プロセスパラダイムへのシフトに対応するために、社会の様々な営みを「集まって蓄積する」という観点に沿って変えてゆくべき時に来ているのではないでしょうか。住まい方も働き方も例外ではありません。コレクティブは住まいから始まり、住まいだけにとどまらない広がりを持つようになるのは、この時代にあってはごくごく自然な流れであるように思えるのでした。【了】

 

文責:木村麻紀

 

 

木村 麻紀

木村 麻紀

湘南生まれ、湘南育ち。時事通信社記者、米コロンビア大学経営大学院客員研究員などを経て、環境ビジネス情報誌『オルタナ』 の創刊に参画。同誌副編集長、パルシステム生活協同組合発行情報誌『POCO21』編集長を歴任後、現在は「まちエネ大学」をはじめとする地域コミュニティデザイン・地域人材育成のプロジェクトを手掛ける。小学生男の子の母。最近の関心事は「『生きるように働く』ための場づ くり」と「(どんな環境でも生きて行ける)人育て」。究極の夢は、職住近接の働き方ができるコワーキングスペース付きコレクティブハウス(的なもの)を地元につくること。 著書に「ロハス・ワールドリポート ー人と環境を大切にする生き方ー」(ソトコト新書、木楽舎)、「ドイツビールおいしさの原点 −バイエルンに学ぶ地産地消−」(学芸出版社)。編著に「「社会的責任学入門〜環境危機時代に適応する7つの教養〜」(東北大学出版会)など。

あわせてどうぞ