エコロジーでつながるコミュニティのかたち ~里山長屋

 

パーマカルチャーという言葉をご存知だろうか。
私自身今回の取材まで、植物と動物と人間が共存する自給自足の農業、というような狭い意味でとらえていた。
パーマカルチャーとは実はもっと大きな概念で、一言でいえば「農的な暮らし」ということ。
20世紀を経て私たちが失ってしまった、人と人のつながり感、人と地域のつながり感、人と自然とのつながり感――。それらを取り戻すために、自然の生態系をお手本としながら、人間を取り巻く自然や社会・経済などあらゆる要素を一緒にデザインする考え方、世界中の伝統的な暮らし方の知恵を集めたものをパーマカルチャーという。
そのパーマカルチャーをキーワードに集まったのが、この里山長屋の住人の皆さんだ。

 

敷地の一番手前に位置するのがコモンハウス

 

コモンハウスの奥に4つの住居が並び、各住居の前には菜園が広がる

 

 

コミュニティの核はパーマカルチャー

 

新宿から中央線の電車に揺られること1時間、神奈川県北西部に位置する森と湖のまち、藤野。人口1万人のうち、半数がほかの町からの移住者、そして多くの芸術家が住むという独特の文化を持つ。その藤野地区の相模湖に隣接する小高い丘の上に、里山長屋はある。2011年2月に完成したばかりのこの長屋には、4世帯の家族が暮らしている。もとは藤野にあるNPO法人パーマカルチャー・センター・ジャパンという、パーマカルチャー塾の仲間だった住人たちが、コーポラティブ方式で、設計段階からともにつくり上げた。

 

 

エコロジーとコミュニティの重なる場

 

里山長屋の特徴は、その名のとおり、「里山」と「長屋」。日本的なパーマカルチャーを追求する皆さんが思い浮かべた風景が「里山」だった。人間と自然の中間に位置し、お互いがうまく関係しあい、森の恵みがいただける場所。そして、日本の古きよきご近所づきあいの形が江戸時代の「長屋」。つまり、ここは里山=エコロジー、長屋=コミュニティという、2つの要素が重なる場なのである。

 

設計・建設段階では、できるだけ自然と共存できるように、土に還る素材や資源を選んでいる。地産地消にこだわり、なるべく地元に近いところの木を製材し、地元の棟梁、職人さん達にお願いしたとか。同時に住民も塗装や土壁、棚など半分手づくりをしている。太陽光や風の流れなど、自然のエネルギーを利用して夏涼しく冬暖かいように工夫した建築のしくみや、雨水タンクやコモンハウスのキッチン、お風呂、洗濯機などをシェアすることなどにより、エネルギーやコストの削減効果もある。

 

また、住人同士で、協力、共有することで、暮らしが豊かになる。「たすけあい」「わかちあい」「おすそわけ」といった、昔ながらの長屋の良さを生かしながらも、プライベートとシェアのバランスを考えた、いまの世代に合った暮らし方を模索しているという。住民は日々の暮らしのなかで自然に顔を合わせ、声をかけあう。月に一回程度はコモンハウスで食事をしながら、共同の菜園づくりや今後の暮らしのことについて、話し合うそうだ。

 

人とのつながりは、長屋内だけにとどまらない。コモンハウスは、近所の人がお茶を飲みにきたり、ヨガ教室を開催したり、震災直後には援助物資をまとめて被災地に送る拠点となったりと、予想以上に地域に開かれた色々な使われ方をしていて、嬉しい誤算だったと、設計者で住人の山田さんは話す。

 

コモンハウスは、土足で入れる台所(土間)と、お風呂・トイレ・ゲストルームにもなる和室を備えた、里山長屋と地域のコミュニティスペースだ

 

 

トランジション・タウンの活動拠点

 

住人同士や地域をつなぐ場としての機能のほか、コモンハウスのもうひとつの役割は、「トラジションタウン藤野」の活動拠点であること。「トランジション・タウン」とは、気候変動やエネルギー危機という地球規模の問題を契機として、市民が中心となって脱石油型をはじめ、現代社会の大きなシステムへの過度な依存体質から脱却する地域づくりをめざす運動である。パーマカルチャーの考え方をまちづくりに応用したロブ・ホプキンスが、2005年にイギリス南部の小さな町で始めたこの運動はいまや世界中に広がり、藤野でも2008年秋、藤野の住民による「トランジションタウン藤野」が結成された。実は、里山長屋の住人の多くがこの活動にかかわっている。コモンハウスでは、トランジションタウン藤野のミーティングが月に何回も行われている。里山長屋は、トランジションタウン藤野の活動を象徴する建物といえるだろう。

 

トランジションタウン藤野には、現在、地域通貨部、森部、藤野電力、という3つの部会がある。代表的な取り組みが、地域通貨「よろづ屋」。利用者は年会費を払い、あらかじめ、得意なこと、貸してあげられるものなどを登録しておく。よろづ屋のかなめは、メーリングリスト。「ベビーカー貸してください」「パン焼きました」「種の交換会しませんか」など、需要と供給のやりとりのメールが、日に20-30通も飛び交う場合もあるという。取引が成立すると売り手と買い手が通帳にサインをする。

 

この地域通貨を理解するにあたって、日本銀行券の世界で生きている私たちは、頭を切り替えなければいけない。よろづ屋をたくさん使って、マイナスが増えても、自分が人に何もしてあげることがなくても、悲観しなくていい。そういう人は、残高がプラスの人をつくっただけで重要な存在なのだとか。つまり、地域のなかになんらかの価値を生み出し、地域のつながりを強くするということが、この地域通貨の最大の意義なのである。とはいえ、最初は何もしてあげられることがないと思っていた人が、こんなことでもいいんだ、こんなことでも喜んでもらえるんだ、と自分の可能性に気づくことも少なくないそう。そして、何かをしてもらうと、今度は自分が何かをしてあげたいという、作用が自然に働く。昨年100世帯だった利用者は、今年は150世帯までに広がった。

 

 

人間と人間の間合いをどう取るかのトレーニング

 

住人と仲間が集まっての庭づくり

 

人と人、人と地域、人と自然――。互いがゆるやかにつながるこのコミュニティが生まれて8ヶ月。住人のみなさんは、この新しい暮らしをどのように受け止めているのだろうか。

 

「防音はしっかりしているものの、ちょっとした物音や赤ちゃんの泣き声は聞こえる距離感。でも人の気配があるほうが安心できる」

 

「常に現在進行形の暮らし。人と近い分、良い意味での緊張感がある」

 

「ここの住人は、半分くらい同じだけど半分くらい違う。得意分野が違っているからいい」

 

「みんなで何かをやると、1人や1家族ではできない、もっと大きなことができる」

 

「お互いの友人や知人を紹介しあって、自然に人とのつながりが広がる。エコロジーやパーマカルチャーといった、共通の価値観・関心のフィルターが良い意味でかかって、色々な人と知り合える」

 

などなど。

 

ただし、良いことばかりではないだろう。いくらパーマカルチャー、エコロジーという共通の価値観を持つとはいっても、やはりお互い違う環境で生まれ育った個人と個人。すれ違いや、煩わしさはないのだろうか。

 

「たしかに日々のちょっとしたイザコザはある。エコについての温度差も実はそれぞれで、家庭によってその住まい方は様々だ。でも違う価値観を認めあいながらでないと一緒に暮らしていけない。無縁社会を迎えるにあたって、私たちは、人間と人間の間合いをどう取るかのトレーニングをすべきではないでしょうか。そういうことが面倒になって、やめてしまったのが、これまでの社会」と山田さん。「単純化、大量消費、大量生産の産業文明にとって、個の確立は都合がよかった。しかし、人はどんどん疎外感を感じるようになった。人は本来何かとつながっていることで安心感を持ついきものですから」

 

里山長屋の設計者で住人の山田さん

 

山田さんは、エコロジーとコミュニティの根っこは一緒なのだともいう。キーワードは、つながり感と関係性。「人が人らしく生きるためには、人とのつながり感、自然とのつながり感が必要なんです」私たちが大いなる循環のなかで感じる安心感の理由だ。自分らしい個は確立しつつも、他者の個、そして自然と心地よくつながる。そんな発展系の暮らしの形がここにある。

 

取材に訪れたこの日は、仲間たちが集まって庭を整備。朝何もなかった庭に、夕方立派な田んぼと菜園が現れていた。里山長屋は、パーマカルチャーを志す仲間たちにとっても、先進事例で心強い存在。作業日には、このような暮らしをしたいと考える人たちが、協力を惜しまず、どんどん集まってくる。完成した田畑で、これから、みんなでお米や野菜を育てる。

 

この日、りんごなど、いくつかの木の苗をみんなで植えた。記念植樹だ。

 

いま0歳と5歳の女の子も、今日植えた木々と、そしてこのコミュニティとともに育っていく。

 

1年後、3年後、10年後――。今後のコミュニティの成長が楽しみだ。【了】

文責:城野千里

 

 

記念植樹として植えた果樹の苗

 

里山長屋の住人のみなさん (左から)池竹さん、小山さんご夫妻、山田さん、小林さん一家

 

 

 

城野 千里

城野 千里

コレクティブハウス居住によるシェアする暮らし経験5年。 現在は、東京杉並区に在住し、持ちよるまち暮らしについて体験&考察中。 関心事は、社会、環境、文化、アート、料理、食べることなどなど。

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