約18年の時と共に熟成された経堂コミュニティ~『地域とつながるゼミ 第一期』 第1回(2014.1.20)レポート~

神田にあるR25カフェ(MATOME CAFE + R25)で開講中の「これから職人ゼミ」。野菜、雑貨、古本など様々なジャンルの職人と出会い、仕事と遊びの未来を考える、新しい学びの場では、「これからの古本屋学」や「未来の八百屋学」など、魅力的な講座が多数開かれている。

 

去る1月20日(月)、「これから職人ゼミ」の一つとして「地域とつながるゼミ 第一期」第1回目が開催された。講師は、経堂のイベント酒場「さばのゆ」店主であり、コミュニティプロデューサーの須田泰成さん。テレビやラジオ、出版など様々なメディア業界にて、脚本から各種プロデュースを行う傍ら、自身が運営する「さばのゆ」では、落語会やライブ、「食」にまつわるイベントなどを通じ、全国の地域コミュニティをつなげるプロジェクトを多数手掛けている。

 

実は本サイトでも2011年9月に「さばのゆ」を取材し、記事を掲載している。そこで、進化する「さばのゆ」の取り組みや、地域とのつながり方を追うべく、「地域とつながるゼミ」全5回の講座をレポートすることになった。

 

人が役者であれば、地域は劇場である

 

さて、大学生から社会人まで参加者約10名が集まった第1回目は、須田さんによる講座概要説明からスタート。今回の「地域とつながるゼミ」では、「自分が関わっている地域をより楽しむコツ」、更に「自分自身が主催となって地域コミュニティを盛り上げるコツ」を学んでいく。特に「場がなくても地域を盛り上げるコツ」や「メディアを呼び込むコツ」は、メディア業界でのご経験の深い須田さんから学べることが沢山ありそうだ。

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経堂の地域活性の顔でもある、須田泰成氏。

 

全5回の講座では、地域コミュニティ拠点づくりや、場所を持たずに地域コミュニティを発展させる方法などを学び、最終回では「さばのゆ」にて地域コミュニティを盛り上げるイベントの開催を予定している。

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仕事や家事をやりくりして、月曜20時に各地域から集まった参加者10名。

 

その「地域コミュニティ」だが、須田さん曰く、地域を盛り上げるうえで大事なことは「自分と地域の相性」を調べること。「地域を楽しむ」と言うと漠然としてしまうので、地域を別の言葉に置き換えてみる、例えば「会社を楽しむ」と置き換えてみた時に、「この会社、合ってないな」と思ったなら「辞める」という選択肢がある。

 

それと同じく、「人が役者であれば、劇場が地域」であることから、実際に地域に足を運んで、自分との相性をまずは確認することが大事である。

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「いいな」と思っていた地域が、「実は違った」ということもある。地域と自分にも「相性」がある。

 続いては、参加者同士による自己紹介だ。

「作業療法士をしていて、一般の人と障がいのある人が垣根なく生活できる地域を作りたい」と言う人や、「実家の仏壇仏具店を、伝統工芸品としての仏具の魅力や文化を発信でき、外国人も気軽に立ち寄れる場所にしたい」と言う人。また「高齢化が進む下町で子育てをしている中、お母さんたちが気軽に集まれる場所を学校という場から始めたい」と言う人や、「大学の卒論で離島の地域活性について取り組んでいるので、今後も日本の地域ブランドづくりをしたい」と言う人も。

「参加者一人一人に、こんなイベントをやりましょう、という話を既にしたいぐらいですね」と須田さんが言うほど、様々な動機と意欲を持った人たちが参加しているのがよく伝わってくる。

特に参加者10人のうち3人が、仕事で障がいのある人たちと接しているとのこと。そのうち1人の、「一般の方や障がいのある方という線引きをせず、福祉という視点から外れたところで、もっと社会を巻き込んだ楽しい取り組みをやっていきたい」という発言が印象的だった。

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地域活性において取り組みたいと思っていることを、かなり具体的に考えてきている参加者たち。

 

 

経堂の名店「からから亭」の経営危機を、地域の皆で救った

 

各自の自己紹介が終わった後は、須田さん自身の地域活性の取り組みについての発表を聞くことに。

 

須田さんが初めて経堂に住んだのは1988年。植草甚一さんの本に触発され、鞄一個で降り立ったのが経堂である。その後、大阪に戻り、1989~1994年まで映像制作会社などでサラリーマンとして働き、1994年にフリーランスとして独立。そして、イギリスでコメディの研究とライター業を行い、帰国と共に日本での拠点を再び経堂に移したのが97年のこと。フリーランスになり、仕事を立ち上げるうえで大変なのは、最初の5万円、10万円といった小さな仕事を成立させることで、その時に「人とのつながりの大切さ」を身に染みて実感したという。

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大阪に帰ったり、イギリスに行ったりしながらも、結局戻ってきたのは経堂だった。

 

 

 その須田さんが、2000年から経堂の地域活性に取り組むきっかけになったのが、大好きなラーメン屋の「からから亭」が、近所に出店した激安ラーメン店との価格競争で経営危機に陥ったことだった。「からから亭」はラーメン屋でありながらも、1979~89年までの10年間、柳家小さん師匠の一門会などが落語を行う「経堂落語会」を主催。また、政治家から役者志望のフリーターまで様々なお客さんがいたが、大将の栃木さんは「同じビールを飲んでいる人は、皆平等」ということで、皆を平等に扱い、店内ではお客同士のフラットな人間関係が築かれていたという。

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「からから亭」大将・栃木さんが築いた「落語会」は、現在、須田さんに受け継がれている。

 

 

 その「からから亭」の経営危機を救うべく、2000年に須田さんが中心となり立ち上げたのがWEBサイト「経堂系ドットコム」。毎週月曜日に、「からから亭」でのキャッシュオンの立ち飲みイベントを企画し、それが評判を呼び、新聞やTVに取り上げられ、メーリングリストやWEBサイトの連動などもあり、「からから亭」にお客さんが再び集まるようになり、ついには経営危機を脱したそうだ。毎週月曜日のイベントは3年間、約150回続いたという。

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奇しくも経営危機を救う目的で立ち上げられたサイト「経堂系ドットコム」は、今年で14年目を迎えた。

 

 

「何かあった時に、この人の為に動きたい」と思えるレベルが、本当の「つながり」

 

 しかし2007年に「からから亭」の大将・栃木さんが進行性の難病にかかり、閉店を余儀なくされることになった。その際、せっかく培ってきた長屋感を守りたいと思い、須田さんが2009年に経堂にオープンしたのが「さばのゆ」である。2011年には大阪・福島に「さばのゆ温泉」をオープンし、地域を盛り上げる活動に更に取り組むようになり、口蹄疫被害を受けた宮崎県や、東日本大震災により壊滅的被害を受けた宮城県、福島県を支援する活動にもつながった。

 特に、震災の津波により工場が流されてしまった宮城県・石巻の水産メーカー「木の屋石巻水産」の復興においては、「さばのゆ」の常連さんや経堂の飲食店、そしてメディアも巻き込んだ一大プロジェクトに。

 震災前から、「さばのゆ」のイベントの際に皆で食べていた「木の屋石巻水産」の缶詰を、流された工場跡地の泥土から掘り起こし、経堂から支援物資を届けて空っぽになった車に乗せて、再び経堂へ運んできた須田さん。泥のついた缶詰を「さばのゆ」の軒先で洗うようになったところ、常連さんや、ニュースを聞きつけてやってきた人までもが缶詰洗いを手伝ってくれ、結婚式の引き出物として購入してくれる人も現れ、結果的には約30万缶、およそ9,000万円の売り上げになり、従業員を一人も解雇することなく2013年5月には工場が再建された。

 「『つながり』というのは単なる知り合い、挨拶をするレベルではなくて、『何かがあった時にこの人の為に動こう』と思え、実際に行動に移せること」という須田さんの言葉が凝縮されたような事例となった。

泥の付いた木の屋石巻水産の缶詰を、「さばのゆ」の軒先で洗い販売したことはニュースにもなった。

 

 

聞き役に徹することが、地域の人や場の存在意義に触れる秘訣

 

 最後に、地域とつながるうえでのポイントとして語られたのが、「つながるきっかけ」にアクセスすることである。それがお店であれ、イベントであれ、公共施設であれ、その際に大事なのが「なぜその場所が存在しているのか考えること」と、「店などの『場』の中では『聞き役に徹すること』」と言う須田さん。

 「公共の場所なら税金で運営されていることもあり、気軽に訪れても大丈夫だけれど、例えば、若い女の人が始めたばかりのお店に行くなら、『家賃も払い、減価償却も発生して、1日に経費はこれ位かな?』といったことまで想像して、それなりのお金を使うことが大事。そのお店の『存在理由』を考えれば、このように頭を働かせることができるし、そういった背景を知るには、聞き役に徹する方が色々なことを学べる」という言葉には、地域とつながる際には、利益を出すことも含め、人の想いやお金の流れにも気を配り、そして人の話に耳を傾けることがとても大事であることを実感した。

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どんなにSNSが発達しても、心のつながりには、時間と継続性、そして距離感を配慮する気持ちが必要だ。

 

 

 そして約18年かけて経堂の土地を盛り上げてきた須田さんが語る「つながりを熟成させるコツ」は、時間をかけて、繰り返し会い、距離感を保つこと。「『蒔く』という漢字が、『草かんむり』に『時』と書くように、何事も芽吹くまでには時間が掛かるもの」という須田さんの言葉に、深くうなづく参加者の姿も見えた。

 終了後、参加者からは「地域とつながるとどうなるのか、具体的にイメージが出来た」という声や「当たり前のことだけれど、時間がかかるということがとてもよく認識できた」という声、また「固定観念を取っ払って企画を考えてみたい」という声も。第2回も楽しみな初回となった。

<告知>

新しい「地域とつながるゼミ」は、2014年4月7日から毎週月曜日(全5回)の開催が決定しています。ご興味ある方は「これから職人ゼミ」HPをご確認ください。【了】

(文責:田口歩)

 

田口 歩

田口 歩

東京と福岡を行ったり来たりの、転勤族社宅育ち。 隣近所を知っていて、社宅の一部に中庭や共有スペースがあるのが普通だと勘違いして過ごした幼少期。 大学在学中、米国カリフォルニア州立大学での交換留学を経て、外国人ルームメイトとのシェアな暮らしに少し目覚める。 卒業後、(株)ベネッセコーポレーションでの編集業務、オルビス(株)でのマーケ、広報業務等を担当したのち、2012年12月多世代型シェアオフィス「NAGAYA AOYAMA」をオープン。 「NAGAYAの母」として、シェアオフィスの企画、コミュニティ運営を行う。 コレクティブハウスかんかん森居住者(2008年3月より)。 NPOコレクティブハウジング社団体会員。 好きなモノ:カレー、アート、演劇、ライブ、落語、アウトドア、僻地 「シェアする暮らし」について コレクティブハウスに住んで5年目。 体調を崩して寝込んだら、ドアノブにヨーグルトがかかっていたり。 ベランダにゴキちゃんが出たら、お隣の人が退治をしてくれたり。 仕事で落ち込んでいたら、小学生居住者が「バトミントンしよう!」と誘ってくれたり。 近所の男友達が、貸したデジカメを夜中にポストに返しにきてくれたら、「変な男の人が田口さんのポストを触ってた!」とメールで通報があったり。 自分一人で何でもできることが良いことだと思っていたし、人に迷惑をかけないことが良いことだとも思っていました。 でも、自分一人では出来ないことや自分の弱いところを、「出来ないんだ」「苦手なんだ」と他人とシェアできることで、自分一人で自分を抱え込まなくてよいこと、そして他人が自分のことを、自分と同じように大事にしてくれることをこの暮らしで知った気がします。 そして、自分にとっては普通のことが、相手の思わぬお役に立って思わぬ喜びを感じたり。 社会って、凸と凹で出来ていて、そんな凸と凹のお持ち寄りが「シェア」なのかもしれないなと思う今日この頃です。 参加プロジェクト コレクティブハウスかんかん森 私とシェア 2013 「勝手に人をプロデュース」 リンク Facebook Twitter

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