まち暮らしを楽しむ、懐かしくて新しいモデル ~西荻案内所(前編)

 

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東京、JR中央総武線沿いの西荻窪駅を中心としたまち、通称「西荻」。23以上の商店会を有し、個性的なお店と人が集まる人気スポットである。基本的には住宅街であるが、飲食店、古本屋、骨董品店などのさまざまな個人商店がひしめき、懐かしくも新しい、独特の雰囲気がある。このまちに、いかにも「西荻らしい」場所がある。「西荻案内所」だ。

 

西荻案内所は、その名のとおり西荻のまちを案内してくれる場所。行政や地元商店街等の支援を受けず、西荻を愛する有志メンバーで運営される私設の案内所なのだ。観光地でもないまちに案内所があるとは、一体どういうことなのか?その実態を確かめるため、話を聞きに行った。

 

 

西荻のことならなんでも

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2013年3月にオープンしたこの案内所には、西荻に住む人も他のまちからの人も、0歳から103歳までさまざまな人がやってくる。「葉巻はどこで手に入りますか?」「おすすめのお店はどこですか?」と聞きにくる人もいれば、ふらりと覗きにくる人もいる。いつの間にか人生相談が始まり「人生案内所の看板出してたかしら?(笑)」というようなことも。最近は、「新しく西荻にお店を出したいんですけど」と相談に来る人もいるそう。ここには、まちの縁側、お茶の間といった風情と、まちの相談所のような懐の深さが感じられる。

 

案内所の中心メンバーは、所長の奥秋圭さん亜矢さんご夫妻、チャンキー松本さん犬ん子さんご夫妻、そして案内所の発起人である茶舗あすかの渡邉惠子さん(通称あすかさん)の5人。そのほかにも西荻を愛する有志の方々が、案内所を支えている。

 

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奥秋さん夫妻。本職がデザイナーの圭さんは、フリーペーパー「西荻丼」の三代目編集長も経験。亜矢さんの特技は和裁

奥秋さん夫妻。本職がデザイナーの圭さんは、フリーペーパー「西荻丼」の三代目編集長も経験。亜矢さんの特技は和裁

 

 

案内所では、西荻に関するあらゆる情報提供を行っているほか、「西荻まち歩きマップ」「西荻観光手帖」の編集、「西荻観光案内」などのさまざまなイベントの企画・運営を手がける。また、「西荻案内音頭」を制作して夏祭りで披露したり、西荻のスペシャリストを認定する「西荻検定」を行うなど、その活動は自由でユーモアに満ちている。

 

 

 

よそ者、わか者、ばか者の力

 

 

茶舗あすかの渡邉惠子さん(通称あすかさん)

茶舗あすかの渡邉惠子さん(通称あすかさん)

 

 

西荻案内所は、なぜ、どのように生まれたのだろう?
ことの発端は、あすかさんが長年抱いていた夢。そして、奥秋さん、チャンキーさんたちとの出会いにより化学反応が起こった。

 

実は、「西荻まち歩きマップ」の前身となった「まち歩きマップ」を、あすかさんの参加していたNPOが10年ほど前から発行していた。そのマップで、茶舗あすかは「駅前案内所」を名乗り、あすかさんは、知る人ぞ知るまちの案内人として活躍していた。

つねづね、独立した案内所がほしいと考えていたあすかさんは、2012年、まち歩きマップの改訂作業などを圭さんに依頼したことがきっかけで、奥秋夫妻と知り合う。さらに、その年、あすかさんが主導していた西荻夕市というイベントのキービジュアルをチャンキー松本さんが手がけ、チャンキーさん夫妻とも交流を深める。そんな折り、案内所にぴったりの物件が見つかった。いつの間にか「巻き込まれていた」という奥秋さん、チャンキーさん。案内所開設に向けてすべての事が進んでいく。まちの人々の力を借り、全部自前で「塗ったり」「貼ったり」手作りして、西荻案内所が誕生した。

 

西荻で生まれ育って六十数年のまちをこよなく愛するあすかさんと、いわばよそ者だけれど思いを同じくし、ものづくりの特技を持つ奥秋夫妻とチャンキーさん夫妻。「まちを動かすのはいつだって、よそ者、わか者、ばか者なのよ。若い人と一緒にやるのは楽しい」とあすかさんは笑う。チャンキーさんや奥秋さんも、「あすかさんはその感覚を持っているから、自分たちを受け入れてくれた」という。

 

西荻まち歩きマップ。左があすかさんのNPOが発行していたオリジナル版、右が現在のもの。2007年に西荻に引っ越して来た奥秋夫妻も、まちを知る過程でこのオリジナル版に助けられた

西荻まち歩きマップ。左があすかさんのNPOが発行していたオリジナル版、右が現在のもの。2007年に西荻に引っ越して来た奥秋夫妻も、まちを知る過程でこのオリジナル版に助けられた

 

 

 

まち暮らしを楽しむ

 

西荻案内所では、「西荻に来た方々の「地域デビュー」のお手伝いができれば」と圭さんはいう。「住んでいるまちの中に、自分の居場所があるといいと思うんです。それぞれの人が、学校や仕事以外で、心落ち着く、まちや人と関わりを持てる場所を持てるといい」と亜矢さんも話す。

 

西荻案内所は公的な機関ではないからこそ、良い意味での依怙贔屓(えこひいき)が横行する。メンバーが本当に面白いと思ったことや愛着のあるお店を紹介するのがポリシー。「テーブルの角が丸いお店が好き」と話す圭さん。「どこか突っ込みどころがあるお店が好きなんです。」

 

人気のお店やかっこいいお店は、インターネットやガイドブックに載っている。そんな時代だからこそ、そこに住む人ならではの視点と「口コミ」は貴重だ。加えて対面だと、「あなたはこういう人だから、ここがいい」と、その人に合わせた紹介ができる点も強みだという。西荻案内所では、単なる情報だけでなく、そのモノやコトの手触りも教えてくれる。

 

何より「まちを楽しむ」「まちを楽しんでもらう」ことが、案内所の一番の目的だと、あすかさんはいう。チャンキーさんも遊び心に溢れている。「まちを盛り上げなきゃなんて使命感はないですよ。楽しいからやってます。周りも困るでしょう、使命でやられたら(笑)。せっかくその土地や人に出会ったんだから、そこでできる限り楽しんで、居心地よくやりたいんです。遊べそうな場があれば、隙間に入っていって広げますよ」

 

 

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チャンキー松本さん。絵本作家、イラストレーター、紙切り似顔絵師など、多彩な顔を持つ「遊び」の達人。2011年の東日本大震災直後に大阪から西荻に移住

 

後編につづく

 

 

 

城野 千里

城野 千里

コレクティブハウス居住によるシェアする暮らし経験5年。 現在は、東京杉並区に在住し、持ちよるまち暮らしについて体験&考察中。 関心事は、社会、環境、文化、アート、料理、食べることなどなど。

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