仲間とつくる次世代のワークスタイル~「PAX Coworking」

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「住まい」と「働く場」。別々のようでいて、実は根っこで深くつながっているテーマだ。両者とも、空間そのものだけではなく、そこに集う人同士の交流によってもたらされるつながりに新しい価値を見出す人々が増えている。

 

そんな中で、欧米から始まり日本でも注目を集めつつあるのが、コワーキング(Coworking)というワークスタイル。独立して働く人々をはじめとする、さまざまな考え方、業種の人々が「コワーキングスペース」に集まり、単に場所を借りるだけでなく、互いに情報と知恵を共有しながら働く。日本で2つめのコワーキングスペースが世田谷区経堂にあると聞き、早速訪れた。

 

2010年8月にオープンした「PAX Coworking」


佐谷恭さん(PAX Coworking運営会社 株式会社旅と平和 代表取締役)

 

 

取り払われたふたつのパーティション

 

コワーキングスペース「PAX Coworking(パックス・コワーキング)」に入ってまず気がつくのは、間仕切り(パーティション)がないということ。運営会社代表取締役の佐谷恭さんは、その理由をこう説明する。

 

「実はパーティションには2つあって、1つは物理的なもの、もうひとつは心理的なものです。そこに集う人の心のパーティションですね」

 

「飲食店を例にとると、日本では普通、相席する時は店員でも客でも『すいませんが』と断ります。すいませんと言うくらいだから、相手に対して失礼なことだと認めているし、実際相席してもほとんど会話は起こりません。シェアオフィスとコワーキングスペースもこれと近いことがある。パーティションがないシェアオフィスのテーブルで、人々は隣同士には座らず、必ず一つあけて座ろうとします」

 

「でも、うちではこうです。『隣、いいですか』、または先客が『あっ、そんなところじゃなくて隣に座ってよ』と。僕らが何も仕切らなくても、利用者同士が自発的に名刺交換を始める。つまり、ここでは「話しかけてよい」というコンセンサスがあるのです。コワーキングスペースってそういう場所ですよ、というコンセンサスが」

 

 

「できるだけ何もしない」運営者の意図

 

店の相席同士でも視線すら交わさないシャイな日本人が、あらかじめ利用者に場の主旨を伝えるだけで、本当にこのようにいとも簡単にコミュニケーションを始めるのだろうか。

 

「もちろん、来る人みんな同じレベルでのコンセンサスがあるかというとそうではない。何となく来る人もいますし。色々な人が話しかけてはくるけど、居づらそうにして次から来なくなる人もいて、それはしょうがない。コワーキングスペースは広まるとは思うけど、すべての人がコワーキングするようになるとは思わない。たぶん、1割広まったらすごいです。残りの9割の人には合わないと思う」

 

コワーキングスペース運営の要諦は「できるだけ何もしないこと」と言い切る佐谷さん。営利非営利を問わず、コミュニティ運営でよく見かける光景は、誰かが一生懸命場を仕切ろうとする姿だ。参加者のための場が、いつの間にか運営側のものになっていってしまう。佐谷さんが利用者から自発的に起こることにこだわっている理由は、まさにそこにあるのだろう。

 

時々来るという利用者の1人に聞いてみた。

 

「はじめに来た時に佐谷さんに『ぶつぶつ言え』って言われましてね。困ったことがあった時にぶつぶつ声に出してつぶやくと、知っている人が誰かいて助けてくれるからって。ツイッターじゃないけど“リアルぶつぶつ”(笑)」

 

意図的な介入はしない。しかし、利用者に場のコンセンサスをつくっていくための運営者としての細やかな配慮が、まさにこのエピソードに凝縮されている。

 

 

 

コミュニティを飛び出して街へ派生する

 

話題は次第に、経堂という街を舞台にこれから仕掛けようとしているイベントの話に移っていった。

 

「最近始めたのが、『経堂フューチャーJelly』というイベント。毎週、定期的にテーマを決めて討論する時間を設けて、よりパックス・コワーキングらしさを出したいと思っています。これらのイベントはこれまで「たまにやるもの」でしたが、それについていつも考えて関わる人を増やし、派生するイベントやビジネスをたくさんの人が手掛けるようになれば面白いなと思っています」

 

良くて1割、世の中のスタンダードにはならないコワーキングかもしれないが、コワーキングのコミュニティで生まれたイベントやビジネスがネットワーク的に地域に派生していったら。出会った人同士がそこで化学反応を起こすことで、街や地域にコワークの価値観や理念が滲みあっていったら。決して小さくない変化が、街全体に表れてくるのではないだろうか。

 

「もっともっとおもしろい方向に向かわせることができると思うんですよね。ちょっと動くと反応する感じがするんです、経堂って。生きているんですよね。逆にやらないと全然動いていかない。そこにはかなりの人の力が必要。経堂フューチャーJellyがそれの入り口になれればいいなと思っています。街は街の人がつくるし、それに外の人が参加することはできるんだけど、要はどうやってそこに外の人がはいりこむか。たまたま3年半前に、縁があってこの街に来ましたが、ここで色々楽しいことをしたいなと思っています」

 

「街づくりとは」と大上段に構えるでもなく、地元人かよそ者かもなんのその。パックス・コワーキングは確実に街のネットワークの結節点になりつつある。ここにいると、何かが起こりそうなワクワクとする予感が抑えきれない。

 

「場を作るだけで勝手に起こる」と佐谷さんは言った。謙遜で言っているのではないのだ。言い換えればきっと、「意図はそこにはない」ということなのだろう。場(空間)ではなく、そこに集う人から生まれるものをつかまえようとする、彼のまなざしがあるからこその、“らしい”言い回しだろう。そんなことに思いを巡らせながら耳を傾けていると、笑いながらこう付け加えたきた。「人の力を信じることですよ。だって、みんな大人ですから」。【了】

 

文責:山下ゆかり

 

Jellyは、誰でも参加できる「coworking」の体験版イベント。PAX Coworkingはマンスリー契約が基本のため、フリーランスやスタートアップ起業家向きと言えるが、Jellyの参加者は関心があって見学的に訪れる人、普段はサラリーマンだが週末に別の視点を求めて参加する人など様々。

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山下 ゆかり

山下 ゆかり

シェアする暮らし歴10年以上、コレクティブハウス居住。はたらく3児の母(30代)。 「シェアする暮らし」について 人々が住まいの“常識”から解放されたとき、どんな世の中になっているかな。 参加プロジェクト コレクティブハウス聖蹟

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