『ソンミサン・マウルの夕べ(2013.11.20)』レポート【前編】

 

ソンミサン(城山)は、韓国はソウル市内にある小高い丘。観光地があるわけではなく、行政区でもない、一見すると、ごくふつうの閑静な住宅街。ここがいま、韓国で「子育てをしたいまち、住みたいまち」として”注目” されているとか。いったいどんな街なのでしょう。

 

中央の緑の小丘がソンミサン(城山)

中央の緑の小丘がソンミサン(城山)

 

ソンミサン・マウルとは?

 

遡ること20年前、この地域に集団移住した30代の共稼ぎ夫婦25世帯が、「自分たちが望むような子育て環境がない。ないなら自分たちでつくってしまおう!」と共同育児施設「ウリ・オリニチップ(私たちの子どもの家)」を設立。その後、その取り組みを発端として人のつながりが徐々にできはじめ、子どもの成長につれて、学童保育やオルタナティブスクール、さらには食の安全のための生協やカフェなど、自らの必要にかられて次々と多くの取り組みが芽吹いてきたのだという。リサイクルショップ、食堂、コーポラティブハウス、劇場、コミュニティFM、地域通貨など、今ではその数なんと70以上!自発的な市民参加によって形成されるコミュニティとして国内外から注目されている。

 

そんな”持ち寄り型”のコミュニティづくりの好事例、ソンミサン・マウルを訪ねるツアー*に、当サイト代表の影山が参加してきた。
「自分が関心をもっているキーワードの宝庫。どうしてこんなことが実現しているのか、自分の目で、肌で確かめてみたかった」と、影山は参加の動機を語る。

 

どんなツアーだったか?の報告は、こちらの視察レポート(http://sungmisan.aka-tsuki.org/report/)に詳しい。今回は11月に開催されたツアー報告会『ソンミサン・マウルの夕べ』から、影山の報告を手がかりに、「私たちがこの事例から学べること」の観点でレポートしたい。

 

ソンミサン・マウルから学べる10のこと

 

1.「自由な個人」からスタートしていること

ソンミサン・マウル(「マウル」はまちや村の意)の場合、マスタープランや計画の全体像を定め、そこに向けて進捗管理を行うような物事の進め方はしない。ひとりひとりの「やってみたい」「こういうのが必要だ」といった発意があり、そこに「それ、いいね」と思える支援者が集まってプロジェクトが生まれる。つまり、やらされている人が一人もいないと言えようか。

 

2.プロジェクトが次のプロジェクトの孵化器になる構図

25世帯=30~40人からスタートしたという数字に注目したい。3人でもなければ300人でもないこの数字。近すぎもせず、かといって顔と名前が一致しないというほど多すぎもしない、ほどよいお互いの居場所を見つけられる距離感だという気がする。今現時点のマウルの状況でいうと、約600戸1200人が関わっているなかで、70のプロジェクトが動いており、ひとつのプロジェクトを構成しているメンバーの数は(重複参加もあるから)おそらく平均30~40人。プロジェクトの会合で人が集まれば、本題とは関係ない雑談する時間もうまれるだろう。そうして誰かと誰かが顔をあわせて話しているうちに、自分のやってみたいことが言語化されることがあると思う。テーマ型の集まりだとそのテーマに関する話しかしづらいということがあるが、目的をもたずに他者と対話できるという場があることが、次の「やってみたい」を引き出す孵化器になっているのではないか。

 

3.系が閉じていないこと。境界がのびちぢみすること

行政主導の街づくりなどを考えると、境界線が地理的に区分されるので、そこに該当するさまざまな考えをもつ住民すべてが管轄対象となり、広く遍くといった点での難しさも生まれてくるように思う。ソンミサンは行政区ではない。どこからどこまでがメンバーなのかというような会員制度もあるわけではない。関心領域でプロジェクトに参加すればメンバーになるし、そこから離れることも自由。この自由度の高さは大きなポイントだ。

 

4.貢献意欲、相互支援性

言い出しっぺの貴重さということを、マウルの一員から聞かされた。言い出してくれた人の勇気を称え、それをみなで応援するという空気感をつくれるかどうかが、次のやってみたいという発意を引き出せるかどうかの分かれ道になっているのではないか。

 

5.「けんか」への構えができていること

20年の取り組みの中、「お互いの意見が違う」という状況への対応力がコミュニティに備わってきている。むしろ「ひとりひとり違って当然」というところがスタートラインと理解されている。顔が見える関係のなか、言葉だけでないその人の背景を慮れるということもあるのだろう。また、どうしても意見がまとまらないときは「決めるのをやめる」ということもしている。結論を出すのを急がずに、保留にするという選択肢があると思えることは、議論をする上での安心感につながるだろう。

 

イベント

イベント会場は神田にあるEDITORY

 

6.「説得と理解」でなく「遊びと共感」のコミュニケーション

物事を動かすときによくあるのは、誰かを説得して理解をしてもらうというアプローチ。ソンミサンでは、「遊び」をプロセスにして「共感」をアウトプットにするという形をとっている。会ってきた人たちがみな明るくて朗らかであったのが印象的。社会的な意義は…などと眉間にしわを寄せて議論するのではなく、楽しさが人々をつなげる何よりの求心力になっているように感じた。

 

7.特定のリーダーに依存しない仕組み

各プロジェクトにリーダー役の人はいるが、ある一定の期間で交代するような仕組みにしているという。得手不得手があるのでときにうまくやれない人も出てくるだろう。それでもリーダーがしっかりしないからこそ、他のメンバーの力が引き出されるようなこともきっとある。

 

8.経済、自立採算への意識があり、それを実現していること

 

9.行政との適度な距離

現市長が「ソンミサン・マウルのようなマウルをソウル市内に15ヶ所つくる」との方針を打ち出し、マウル共同体総合支援センター*が作られ、今でこそマウルの取り組みに対しても一定の補助金がでるようになったが、それまではずっと自力でやってきた。新マウルメンバーのなかで補助金頼りの運営に偏りそうな場面では、旧マウルメンバーがたしなめるなど、自立・自律の精神は、歴史の中で受け継がれてきているようだ。

 

10.「マウル」という呼び名

知れば知るほど、この地のニュアンスを正確に表す言葉に悩むが、前述の報告書の中で桔川純子さんが書かれている「マウルとは、生活に必要なことを、ともに話し合い、工夫し、ともに解決するプロセスのなかで形成される関係網のことだ」という表現がとてもいいなと感じた。コミュニティと訳すと、既にあるものであったり、入るか入らないか選択するといったイメージがつきまとうのに対して、より動的で開放的なニュアンスを感じる。日本語でもこうしたものにあたるような何かいい言葉がないものかと思っている。

 

ここまでは、報告形式で影山が感じたことをシェアしてきた。続く後編は、影山からみなで話し合ってみたいことのテーマを投げかけながら、会場とオープンディスカッションした様子をレポートする。次回を乞うご期待!【了】

(文責:山下ゆかり

 

 

山下 ゆかり

山下 ゆかり

シェアする暮らし歴10年以上、コレクティブハウス居住。はたらく3児の母(30代)。 「シェアする暮らし」について 人々が住まいの“常識”から解放されたとき、どんな世の中になっているかな。 参加プロジェクト コレクティブハウス聖蹟

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