まち暮らしを楽しむ、懐かしくて新しいモデル ~西荻案内所(後編)

 

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前編の続き

 

西荻のまちを一つに

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西荻を愛する人たちによって作成され、西荻を愛する人たちに3000部が配布された。近々増刷予定である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もともと西荻のまちは、異なる村々が集まるところに、たまたま90年前に駅ができた地域。行政区もお参りにいく神社も違ういくつかの村が寄りあったところだから、伝統的にまち全体で一体となって、という風習がなかったんです。阿佐ヶ谷、高円寺みたいに大きなことをやっている近隣のまちへの劣等感もあったり(笑)」圭さんは話す。
「狭いところに23以上の商店会があって、それぞれが好きなようにやっているから、何か一つのイベントをやるにしても話がまとまらなくてね。ずっと商店街の垣根を外したいと思っていたの。」そんなあすかさんが、自分と近隣のお店でこじんまりと始めた西荻夕市は、案内所の開設準備と時を同じくして拡大し、今では西荻一帯で取り組む一大イベントとなった。

 

その夕市の人気企画が、西荻案内所が主催する西荻観光ツアー。西荻の歴史や自然、人や文化を歩いて巡る楽しいツアーで、「観光地じゃない」西荻を「観光地」に仕立て上げた。

 

また、西荻の奥深さが一冊にまとめられているのが2014年1月に発刊した「西荻観光手帖」。商店街から請け負って奥秋夫妻が編集したこの手帖には、歴史、自然、文学、建築を軸に西荻の多面的な魅力が凝縮されている。まちのたくさんの人に話を聴いて、いろいろな方が素敵なイラストを描いて、貴重な写真を提供してくれて、「西荻の人たちの力が結集した」傑作となった。「委託した商店会もこんなものができるとは思ってなかったよ。こんな面白いものどこの商店街だって出してない」とあすかさんも胸を張る。

 

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西荻案内所にとって最も印象深かったイベントの一つが、2013年の11月に行った「西荻婚」だという。西荻で食堂兼マッサージ店を営むある夫婦の結婚式を、まちの人たちを巻き込んで、昔ながらの村の結婚式風に仕立てたのだ。井草八幡宮で式を挙げ、昭和のレトロな集会所「井荻会館」で披露宴を行い、駅前で秋田長持唄が唄われ、新郎新婦を乗せた人力車が「お練り」のためにまちをパレードした。行列の先頭は、袴姿の仲人役、西荻商店会の会長であった。駅前や沿道には2人を祝福するまちの人たちの笑顔と拍手。「西荻婚」のためのご馳走、食器、金屏風、写真撮影、交通整理・・・など、すべてが人びとの協力と得意分野の持ちよりによって実現し、西荻の人とまちが一体となった。

 

一生に一度の大イベントを商業サービスに委ねず、こういった関わり合いの中で実現したことは、想像以上にまちと人、人と人との絆を深めたようだ。
「あの2人はまちの人に借りをつくって、たくさんの人の前で結婚の約束をして、絶対別れられないと思うんです(笑)」と亜矢さんは話す。その「まちのお祭り」の大成功の裏には、西荻案内所のとりまとめ力が大きかった。 

 

 

 

よそ者だからこそ分かる魅力

 

どこのまちにも、情報や特技を持った人はたくさんいるが、それらをつなぐ役割の人がなかなかいないという。西荻案内所は、まさにそのつなぎの役割を果たしている。ただし、圭さんはこう語る。「自分たちは、まちや人のつなぎ役というよりは、つなぎ役をつなぐ役なんです。西荻には、昔から住んでいる方や、まちのことを大切に想っている方、何か面白いことをしたいという人がすでにたくさんいて、そういう方々をつなぐんです。」

 

亜矢さんもいう。「自分たちは、よそものだからこそ西荻のいいところがすごくよく見えるんです。地元のひとは、自分たちの良さが見えなくなっていたり、自信もなくなっていたり。だから、私たちは『いいよー!』と言い続けるんです。」

 

ここまで読んで、もしかしたらあなたは、西荻は特別なまちだと思ったかもしれない。もともとの資源やお宝に恵まれた幸運なまちなのね、と。しかし、西荻案内所のみなさんは、
声を大にしていう。「人が住んでいるところには、どんなところでも絶対に魅力がある!」と。圭さんも語る。「自分たちは、西荻の前にもいろいろなところに住んできたけど、あまりまちと深く関われなかったんです。そういうまちだと思っていた。でも今は、西荻案内所の経験から、どんなところに行っても、地方に行っても、それぞれのまちをどう味わったら良いかがわかるんです。見るべきことやものは、本当はどこのまちにもあるんです。」
「そんなら、あなたのまちに面白いもん見つけに行きましょう!」チャンキーさんも笑う。「何もない」と思っているあなたのまちにも、よそ者のフィルターを通せば、すごく面白いお宝が見えてくるにちがいない。

 

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まちになくてはならない存在に

 

2015年1月、子育て中の方にもやさしいまちを目指して「西荻 子どもとおさんぽMAPプロジェクト」が始動した。これまで「安心して子どもといくことができる場所」「赤ちゃんにやさしいお店」などの問い合わせを多く受けてきたという。「西荻って子どものいない大人が楽しめるまちというイメージがあると思うですけど、特定の層だけでなく、よりさまざまな人たちにまちを楽しんでもらいたい」と亜矢さんは語る。

 

私設の案内所ならではの課題もある。「経済的に、経営的にこの案内所を成り立たせつつ、自分たちらしいゆるい運営を恒常的に続けていきたい」「今みたいに好きに自由にやりながら、長く続けていかれたらいいけど」と皆さんは口をそろえる。

 

地域とのつながりが薄れ、まちが画一化し、商店街はもはや都会にしかない。そんな時代だからこそ、まち暮らしを楽しみ、まちを元気にする新しいモデルとして、西荻案内所には今後もぜひ頑張ってもらいたい。きっとここは西荻のまちにとって、もはやなくてはならない存在なのだ。【了】

※「商店街はもはや都会にしかない」チャンキーさんのおことば

 

(文責:城野千里)

 

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【編集後記】
筆者は西荻に暮らして丸一年。西荻に興味を持ち始めたときに案内所を訪れ、まちの面白さや、部屋探しのポイント、おすすめのお店などを教えてもらった。「こんな面白い案内所がある面白いまち」という印象が引っ越しの決め手となった。

城野 千里

城野 千里

コレクティブハウス居住によるシェアする暮らし経験5年。 現在は、東京杉並区に在住し、持ちよるまち暮らしについて体験&考察中。 関心事は、社会、環境、文化、アート、料理、食べることなどなど。

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