フランス農家生活に学ぶ、分かちあう生き方・暮らし方 ~WWOOF

 

見渡す限りの小麦畑。朝陽とともに起き、夕日とともに仕事を終える。仲間たちと語らいながら、ついさっき畑で穫った新鮮な野菜を使った料理をワインとともにゆっくりと楽しむ――。農業の国フランスの農家と聞けば、こんな光景がイメージされるだろうか。そんな日々を当たり前の日常とし、自然豊かな田舎に生きるフランス人は多い。彼らの暮らしに息づくものを肌で感じてみるべく、何軒かの農家をたずねて生活してきた。

 

どこまでも広がる美しい農村風景

 

 

持てるものを分かちあう、ウーフという暮らし方

 

WWOOF(ウーフ)という言葉を聞いたことはあるだろうか。ウーフとは「World Wide Opportunities On Organic Farms」の略で、有機農家へのファームステイの仕組みだ。受け入れ農家はホスト、滞在者はWWOOFer(ウーファー)と呼ばれ、日に6~7時間、農作業や家事を手伝う。ただし、滞在費や食費も、労働に対する賃金も、お互いに無償。双方の提供できるものを交換をしあうことで成り立っている。

 

1971年にロンドンではじまり、現在は世界50ヶ国以上、日本にも北海道から沖縄まで全国に受け入れ農家がある。

 

 

旅でもなく居住でもない共同生活

 

ウーファーの仕事はさまざまだ。例えば、フランス北部のノルマンディー地方で滞在したのは、有機野菜と果物、豚を育てて、食堂、ケータリング、料理やお菓子教室を開くホスト、エネさんご夫妻のお宅。ここでは、こんな仕事をさせてもらった。

 

・野菜の収穫、種まき、堆肥づくり、樹木の剪定、接ぎ木などの畑仕事

 

・料理の仕込み、お菓子づくりなど厨房の仕事

 

・飼育している黒豚に餌やり、掃除などのお世話

 

・併設している有機小麦パン工房の手伝い(深夜〜早朝に行う)

 

・日々の食事づくり

 

などなど、実に幅広い。

 

すべて手作りしたというナチュラルな家。左にはソーラーパネルが。

 

滞在中は一切お金を使わずに生活できる。中には「1年半農家をハシゴしてきてここが7軒目」と笑うコロンビア人女性もいた。その気にさえなれば、タダで世界中を旅しながら、濃密な時間を過ごせる友人を各地に作りながら生活していく過ごし方もできてしまう。

 

「世界を知りたい」と思うとき、一旅行者としてその土地を味わうという選択肢がまずはある。けれど一歩踏み込んで、ともに暮らし、労働に汗し、毎日の食卓を囲んで語らう、「生活を分かちあう」ことで、濃密なコミュニケーションが生まれ、より深い関係性をはぐくむことや異文化理解を助けてくれる。「同じ釜の飯を食う」ことの豊かさと効能は、万国共通なのだ。

 

 

生活を「分かちあう」ことから生まれるもの

 

ウーファーの多くは、私も含めて農業未経験者だ。労働力としての貢献度には個人差もあるし、そう大きくはない可能性だってある。それでもあえて受け入れる理由はどこにあるのか。

 

訪ねたホストは皆が口を揃えてこう話してくれる。

 

「海外の生活習慣や考え方を知れるのはエキサイティング。居ながらにして、世界を旅できるようなものだからね!」

 

「語り合ったり、知恵を交換するのが楽しみで仕方ないんだ」

 

家や食事、労働力など何かを提供しあうか以前に、生活を分かちあう中で、その関係性の中に生まれる価値を積極的に楽しみたいのだという思いが、こう愉快そうに語る口ぶりからも、日々のコミュニケーションからもよく伝わってくる。

 

 

「所有する」という考え方から自由になる

 

前述の有機野菜の食堂を営むエネさん夫妻がウーファーを受け入れるのは「この家も土地も、自分のものだと思っていないから。たまたま管理をしているけれど、人間のものではなくて、地球のもの。できるだけ誰かとシェアできるように開きたい」という考えから。そこには、「所有する」感覚はない。住まいや暮らしを誰かとシェアして生きることの基点になっているのは、「分かちあう」という発想なのだ。

 

彼らはまた、食堂を地域の人たちにも格安で開放している。定期的に「これまでの生活スタイルを変えるには」「自分にとっての幸せとは」といったテーマで、ざっくばらんに語り合う夕べを主催。地域のコミュニティの場を提供し、慕われ、頼られる存在となっている。

 

会場は築200年以上というこの家。この日の参加者は総勢60人。

 

 

地球と人間も、持てるものを分かちあっている、という実感

 

「分かちあう」対象は、もちろん人に限ったことではない。人間が必要とする食やエネルギーも、「分けてくれる」存在である地球から「分けてもらう」という感覚を彼らは持っている。

 

例えば、いくつかの農家ではコンポストトイレを利用していた。水洗式ではなく、おがくずをかけながら使い、ある程度たまるとコンポストで熟成させて、畑の堆肥にするというもの。元々は水道事情の良くないインドで考案された仕組みだそうだ。1年寝かせた人糞堆肥はさらさらで酵素を多く含むため、優良な肥料となる。

 

コンポストトイレ。水の代わりにおがくずがストックされている。

 

「大地が作ってくれた野菜を食べたのだから、その残りは、少し知恵を使っていい形で土に返す。ありがとう、とね。当たり前のことよね」と20代で田舎に移住したデジレさんはさらりと言う。当然のように、自宅の電力はソーラーパネルや小型風力発電で一定量をまかなう。

 

「持続可能な生活をしよう! 環境に配慮しよう!」などと声高に語るわけでは、決してない。シンプルに、清々しくその生活を楽しんでいることが、一緒に暮らすとよく分かる。そこにあるのは、ただ真摯に自然や土と向き合い、無理をすることなく、また地球にも無理をさせないように、自然と共生する人間たちの姿だ。

 

子どもたちも、日々の暮らしの中で自然の循環を学んでいく。

 

フランス語の表現に「L’art de Vivre(アール・ドゥ・ヴィーヴル、英訳するとThe art of Life)」という言葉がある。人生の根底にそれぞれが持っている美学や信念のこと、と私は解釈しているが、のびのびと人生を謳歌するフランス人たちの L’art de Vivreのひとつとして、「分かちあう」精神がしっかりと息づいている。彼らの生き方・暮らし方から私たちが学べることは、大きいように思う。(文責:村上 智子)

 

 

村上 サトコ

村上 サトコ

NPO法人コレクティブハウジング社サポーターズ会員。フランスの農家、知人宅を約1年わたり歩いて暮らして帰国後、シェアハウスに居住する。手ざわりのあるコトやモノに吸い寄せられる傾向があり、最近は玄米麹の味噌を仕込んだところ。 「シェアする暮らし」について 生きることは、シェアすることなんですよね。目に見えるものも見えないものも、近くのいのちも遠くのいのちも、持ちつ持たれつ、つながりつながれ。

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