「いただきます」から生まれる「かぞく」的つながり ~やかまし村東京シェアハウス

 

満開の季節を終えた桜の木に、若葉が少しずつ目立ち始めた4月半ば、JR大塚駅から歩いて10分ほどのところにある「やかまし東京シェアハウス」を訪ねた。ここは、茨城県にあるやさと農場が開催した「やかまし村」というイベントで出会った20代の男女8名が始めたシェアハウスだ。コンセプトは「いただきますからつながる出逢い」。

 

4年前に新宿で誕生し、現在は大塚に居を移し、シェアハウス暮らしを送っている。

 

 

「食卓をともに」から始まった「家族」

 

住宅街の中にある4階建ての一戸建て。ここが茨城県の農場とつながりのある場所だということに気付く人はいないだろう。玄関を抜け階段をあがりドアを開けると、そこは広々としたリビング。中央に丸テーブルがあり、台所では、一人の女性が今日の晩ご飯の準備をしていた。一体、シェアハウスまで誕生させてしまうやかまし村の魅力ってどんなものだったのだろう。
やかまし東京シェアハウス発足当時からの居住者、ちぃさんに聞いてみた。

 

ちぃさん:「やかまし村」というイベントは、「都会の若者たちをもっと農場に呼び込みたい」とやさと農場が企画したイベントでした。お金を使わなくても身体ひとつでこんなに面白い経験ができるということ、収穫した野菜をその場で調理してみんなで食べる料理がこんなにも美味しいということ。やさと農場での体験は、私たちにとって非常にインパクトの大きい経験でしたね。

 

農場側が行なった単発イベントだった「やかまし村」だが、そこに集まった参加者たちが自ら企画メンバーとなり、二回目、三回目と続き、徐々に定期的なイベントとなっていった。

 

皆で一緒に汗を流し、農作業に取り組んだ。

 

イベントを数回重ねて約半年経った頃、企画メンバーの間で、シェアハウスを立ち上げる話が浮上した。それは、今までやさと農場でしか会っていなかったメンバーが初めて東京都内で集合した時のことだった。

 

ちぃさん:やさと農場から取り寄せたお肉や野菜を使ってバーベキューをしている時、「一緒に食卓を囲む生活が農場だけでなく、東京でも出来たら楽しそうだね」という話で盛り上がりました。そうしたら偶然、メンバーの一人の実家が空いており、あれよあれよという間に一緒に住むことになっていったのです。

 

この話にのったのは、20代の男女8名。
とはいえ、まだ出会って半年しか経っていない者同士。会うのが2回目のメンバーもいた。
そこで「これからのシェア生活に向けた本気度を見せ合おう」ということで、入居するまでの2ヶ月間、毎週末みんなで入居予定の家の掃除をすることにした。

 

新居となる庭も、居住予定者みんなで、ひとつずつ手入れをしていった。

 

もともと、みんなで一緒に食卓を囲んだり、みんなで何かを一緒に企画したりすることが好きなメンバーだが、性格も違えば、コミュニケーションの取り方やアプローチの仕方も異なる男女8名。
しかし、掃除やイベント企画の回数を重ねるたびに、お互いのことを理解しあえるようになってきた。その年末、ついにやかまし東京シェアハウスでの共同生活が始まった。

 

始まったばかりの入居後の暮らしはどのようなものだったのだろう。
やかまし東京シェアハウスの立ち上げ当時の住民だったケントさんも、話の輪に加わってくれた。

 

ケントさん:入居者が男女それぞれ4名ずついたので、男からすると女性一般の意見が聞けるのが面白かったです。僕には結婚を考えていた彼女(現奥様)がいたのですが、結婚するタイミングについてシェアハウスのメンバーに相談したとき、女性にとって結婚って年齢的なものが重要だったり、この時期までに結婚したいっていうのがあるんだといった、結婚に対する想いや考えを彼女以外の女性から色々聞けて、とても良かった。

 

どうしてもすれ違いがちな男性と女性。しかし、ここでの生活はお互いがその歩み寄り方を学んでいる。住人同士のキャラクターが異なる中、「お互い様」の気持ちで互いを尊重し合いながら生活を送っているように見えるメンバーたち。共に暮らす秘訣はどこにあるのだろうか。

 

ちぃさん:最初の頃、みんなで住むということ自体、私たちもどういう感じになるのかわからなかったんです。そんな中、一緒に暮らしているうちに、なんとなく家族的な役割分担の仕方をするようになっていきました。
例えば、私は事務方で書類の手続きや、みんなの目につきにくい裏方仕事を担当し、ケントさんは、お父さん的存在としてみんなの方向性を決めたり。さらに自由奔放で色々なつながりを連れてくる長女のような人がいて、そのつながった人たちをまとめ上げる長男のような存在もあり・・・。友達以上、家族未満、でも家族っぽくもある、そんな関係性から「かぞく」という名称を意識して使うようになりました。

 

それぞれの得意なことを活かし合い、苦手なところは他の人に補ってもらい、生活を共にしていく。人数が多いからこそ補い合えることも多くなる。自然な流れで「かぞく」的な役割分担がされていったのは、その関係性の蓄積によるものなのかもしれない。

 

ちぃさん:やかまし東京シェアハウスでは、毎月第一日曜日の夜九時くらいから「かぞく会議」という名の話し合いの場を設けています。そこでは、生活費の精算をしたり、この1ヶ月の間にみんなが出来ていること出来ていないことの確認をしたり、生活の中でもっとこうしたらいいと思うことを出し合ったりしています。

 

例えば、「やかまし村のロゴが欲しい」という議題が出たらその為のチームを作り、「情報整理をしたい」という議題が挙がればウェブを作るという話になったり。プロジェクトはすべて自発的な挙手制で決まるという。

 

この日もホワイトボードには、現在進行中のプロジェクトについてのメモが。

 

 

人生の転機も「かぞく」で乗り越える

 

取材当日、やさと農場ではやかまし村主催「間伐イベント第2弾!森エンテーリング&バーベキューイベント」が開催されており、前日から農場に行っていた居住者たちがぞくぞくと帰宅。「ただいま~」「おかえり~」という挨拶と共に、全員でリビングの丸テーブルを囲んでの夕食がスタートした。

 

食事も当番制ではなく、自主的に作りたい人が作る仕組み。乾杯も自主的に!

 

今日の献立は、塩麹につけたやさと農場の鶏肉、温野菜サラダ、ホウレン草のナムル、里芋と豚肉の煮物、鶏スープなど、農場の恵みがタップリ。こんなにも栄養価の高い食事が日常の彼らにとって、入居前後での変化を聞いてみると、男性陣からは「家事力アップ」の声が。

 

全く料理をしなかったケントさんが料理をし始め、平日の帰宅が遅いマサさんやトニーさん、さなさんが土日に料理をするようになったとか。また「人生で交わることのなかった、出会ったことのないような人たちと出会い、色んな生き方があると知って殻が破られた」との声も。ケントさんがこう語ってくれた。

 

ケントさん:「人生の転機になりがちな20代後半の住人が集まっているので、今後やりたいなということを話していると、話しているうちに実現するんです。例えば、他の居住者が転職活動をしていたのを見て、そういう転職があるんだと知って自分も転職したり。普通は一人で迷って終わってしまうのだと思うけれど、ここでは背中をちょっと押してくれる存在がいる。人脈だけでも8倍ですから、知らなかった道や価値観を知ることができ、結果として殻が破られるんです」

 

時には人生の転機をも作ってしまう、濃密な会話を生む12人が座れる丸テーブル。

 

「Your Choice, Your Life-あなたの選択があなたの人生をつくっていく。その選択肢を増やすきっかけがここにある」というのが、やかまし東京シェアハウスのサブタイトルでもあるそう。最近では、友人を呼んで一緒にご飯を作って食べる「やかましレストラン」というイベントも行われている。
なんだかこのハウスは、ただならぬハウスのようだ…。と思った時に、ちぃさんがまとめてくれた。

 

ちぃさん:最初は農場で体験したことを都会で実験しながら暮らすことを目的としていたのですが、共同作業を通じて、自分たちの生活を自分達の手で作り出す「農的な暮らし」を経て、農業はツールであり、結局私たちがしたかったのは、人と人とのつながり作りだったんですよね。

 

とはいえ「いただきますからつながる出逢い」は、単に人と人をつなげるだけでなく、そこに関わる人たちの人生をも動かしてしまう大きな力を持っているようだ。
そんなハウスの行く末は…。

 

ケントさん:結婚してバラバラになっても、最後はまた集まって、老人ホームにしたいですね。その前に、子どもが出来たらこのハウスで育てたいかも。

 

おじいちゃん、おばあちゃんになってもまた一緒に暮らしている?メンバーたち。

 

色々な可能性を秘めた、やかまし東京シェアハウス。これからも賑やかに、そして着実に進化を遂げていきそうだ。【了】
(文責:浅川美知子・田口歩)

 

編集後記:
やかまし東京シェアハウス御用達の、やさと農場でただいま「季節のお野菜おためしキャンペーン」実施中!無農薬有機栽培で育てた野菜と、広々とした鶏舎で育てた鶏の卵がセットになり、月1回、4か月間届きます。詳しくはコチラ!→http://yasatofarm.exblog.jp/17896159/

 

 

田口 歩

田口 歩

東京と福岡を行ったり来たりの、転勤族社宅育ち。 隣近所を知っていて、社宅の一部に中庭や共有スペースがあるのが普通だと勘違いして過ごした幼少期。 大学在学中、米国カリフォルニア州立大学での交換留学を経て、外国人ルームメイトとのシェアな暮らしに少し目覚める。 卒業後、(株)ベネッセコーポレーションでの編集業務、オルビス(株)でのマーケ、広報業務等を担当したのち、2012年12月多世代型シェアオフィス「NAGAYA AOYAMA」をオープン。 「NAGAYAの母」として、シェアオフィスの企画、コミュニティ運営を行う。 コレクティブハウスかんかん森居住者(2008年3月より)。 NPOコレクティブハウジング社団体会員。 好きなモノ:カレー、アート、演劇、ライブ、落語、アウトドア、僻地 「シェアする暮らし」について コレクティブハウスに住んで5年目。 体調を崩して寝込んだら、ドアノブにヨーグルトがかかっていたり。 ベランダにゴキちゃんが出たら、お隣の人が退治をしてくれたり。 仕事で落ち込んでいたら、小学生居住者が「バトミントンしよう!」と誘ってくれたり。 近所の男友達が、貸したデジカメを夜中にポストに返しにきてくれたら、「変な男の人が田口さんのポストを触ってた!」とメールで通報があったり。 自分一人で何でもできることが良いことだと思っていたし、人に迷惑をかけないことが良いことだとも思っていました。 でも、自分一人では出来ないことや自分の弱いところを、「出来ないんだ」「苦手なんだ」と他人とシェアできることで、自分一人で自分を抱え込まなくてよいこと、そして他人が自分のことを、自分と同じように大事にしてくれることをこの暮らしで知った気がします。 そして、自分にとっては普通のことが、相手の思わぬお役に立って思わぬ喜びを感じたり。 社会って、凸と凹で出来ていて、そんな凸と凹のお持ち寄りが「シェア」なのかもしれないなと思う今日この頃です。 参加プロジェクト コレクティブハウスかんかん森 私とシェア 2013 「勝手に人をプロデュース」 リンク Facebook Twitter

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