シェアする暮らしin京都・後編 ー子育てしながら地域も育てるNPO法人「みのりのもり劇場」

「NPO法人 子育ては親育て・みのりのもり劇場」(以下、みのりのもり)という団体がある。子育て支援のNPO法人なのかな…と思いきや、その活動は実に多彩!
子育て支援としては、幼稚園の延長保育を請け負う「みのりっこクラブ」を主催し、子育てあるある場面をコミカルな演劇に仕立てて「子育てJOYトーク」を上演したり、小学生~中学生が自然とふれあう体験型プログラム「チャレンジキッズ」活動を展開している。

ところがそれにとどまらないのが、みのりのもり。京のおばんざい出す食堂「キネマキッチン」も営むし、地元のほっこり情報満載のフリーペーパー「右京じかん」も発行、毎月第2土曜には地域交流の場として「遊べるつながる二土の市」を開催している。さらには、地元の電車をパトカー柄にした「嵐電パトトレイン」を走らせちゃうし、唐辛子やシソなど地元特産品の加工・卸販売もして、マンション自治会の運営支援、複合商業施設での集客イベント企画までもを手がけてしまう。

さて一体、どんな方々がどんな思いで活動しているのか。代表の伊豆田さんと事務局長の森さんに話を伺った。…といってもお二人は、面倒見のいい近所のおかあちゃん、という感じ。小芝居あり、漫才ありのにぎやかな取材となった。

「元々私らは、幼稚園の保護者仲間なんです。みんなで“こんなんあったらええなぁ”って思う活動をやっていくうちに、これはちゃんと法人化して、ずっと継続できるようにしていこうと」。そうサバサバと語るのが代表の伊豆田さん。2007年に任意団体として小さく始めた活動だったが、2009年にNPO法人化、今では若者やお父さんも加わり、約20名のスタッフで運営している。事業の資金的な柱になっているのは、食堂「キネマ・キッチン」と、幼稚園の延長保育を請け負う「みのりっこクラブ」だ。
01_商店街にほっこりたたずむ食堂「キネマ・キッチン」が1階、2階は事務所
【写真】01_商店街にほっこりたたずむ食堂「キネマ・キッチン」が1階、2階は事務所
「キネマ・キッチン」は、商店街の活性事業の一環として、大映通り商店街振興組合と協働で開設。この商店街がある京都太秦は、かつて大映映画撮影所があり、「日本のハリウッド」と呼ばれていた。そこで、映画をテーマとしたコミュニケーションスペース「キネマ・キッチン」を構想。昼は京のおばんざいを中心にしたヘルシー定食、夜はお酒も飲める居心地のいい食堂としてオープンした。

いざ始めてみると、塾前の小中学生や、子育て中のおかあさん世代、近所の一人住まいのお年寄り、サラリーマンと、あれよあれよと地域の人が集まる場所になった。さらに周辺にある撮影所や幼稚園・小学校の保護者会から、ケータリング注文なんかも入る。その名の通り、地域の心強い「キッチン」の役割を果たすようになっている。

お金を握りしめた小学生も子どもだけで来ることもあるが、ここで働くスタッフにはお母さんが多くて、近所のおばちゃんちに夕飯を食べにきた、という雰囲気だ。親同士が知り合いということもよくあるそう。「子どもが育つ環境の中にね、安心していつでも行ける居場所があるってええな思って」と森さんが言えば、「そうそう。別に地域のために、とかたいそうなもんやなくて、いろんな大人に出会える場所があったらオモロいな、子どもたちにもええやろな、っていう単純な思いなんです」と伊豆田さん。軽やかでいて、その目線はどこまでもあったかい、おかあちゃん目線だ。
02_いつでも元気なスタッフが出迎えてくれる「キネマ・キッチン」
【写真】02_いつでも元気なスタッフが出迎えてくれる「キネマ・キッチン」
もう一つの事業の柱、「みのりっこクラブ」は、幼稚園で14〜18時までの延長保育を丸ごと請け負っている事業。保育士さんだけでなく、お菓子づくりの得意なおばあちゃんやけん玉名人のおじちゃんなど、地域の人も派遣するのが特長だ(現段階では「自然幼稚園」1園のみに実施している)。幼稚園に居ながらにして、ほぼ日替わりで様々な体験遊びができる。地域を幼稚園の中に持ち込んだような仕組みだ。こんなユニークな延長保育にしたのも、「子どもたちにいろんなオモロい体験させたいと思ったら、オモロい大人と出会わせてあげるんが一番」という思いから。「オモロい大人を探したら地域にゴロゴロいはった、という感じ」とカラリと語る伊豆田さんだが、地域の中で子どもと関わる機会も少なく普通に暮らしていた人たちにスポットを当てて、活躍の場をつくっているという意味では、担う役割は劇場のプロデューサーのようだ。

手がける活動を並べてみると、子育て支援事業の他は、地域活性を目的にしたものが多い印象を受ける。ところが「私らそんな、地域のために!とかね、たいそうなこと考えてやってるわけやないですわ〜」という。では、どんな思いで?「ただ単にね、オモロくて、誰かのためになることをしたい、っていうシンプルな動機だけで。でも、顔が見える距離感やプロセスを大事にしたい。そうすると結果的に地域になった、という感じですかねえ」
03_メディアで紹介されることも多い。切り抜き記事とともに飾ってある写真はスタッフたちの運動会の様子
【写真】03_メディアで紹介されることも多い。切り抜き記事とともに飾ってある写真はスタッフたちの運動会の様子
そんな思いで一つひとつ取り組んできた事業が多様な活動になって、地域のたくさんの「誰かのため」になっている。事業ドメインはガッチリ固めているわけではない。ガチガチに課題解決的だったりするわけでもない。でも。どの事業の根底にも、そこにいる人たち一人ひとりに目を向けて光を当てようとする、劇場プロデューサーのようなあったかいまなざしがあるように思う。そうしてプロセスを大事に取り組めば、結果的に「オモロくて、誰かが喜んでくれること」が量産できていく。「何やっとる団体かよう分からん」と言われることもあると苦笑するお二人だが、こういう事業の作り方、広げ方もあるんだよ、と教えてくれるようだ。

こんなみのりのもりだから、組織ももちろんフラットで風通しがいい。たとえば働き方もかなり自由。ワーキングマザーが多いが、子連れ出勤いつでもOK、子どもの行事や体調不良は基本優先すべし、という方針。「10時出勤で終わりはキリの良いところで」という人がいたり、週に2回3時間ずつだったり、それぞれの事情にあった方法で皆が働いている。働ける時間の制約などが理由でハローワークでは紹介可能な求人なし、と言われてしまった人も積極的に受け入れる。夏休み中などは、事務所に取り揃えたおもちゃやゲームで遊ぶ子どもたちが集まり、会議室はまるで子ども部屋だとか。会議では、代表の伊豆田さんに対しても誰もが互いに自由に反対意見やツッコミを入れるという。「みんな、自分のこころの言葉で言い合うんですよ。新しいことやろうと言うとだいたいまずは反対にあいますけど(笑)、でもそれを超えていくプロセスが事業を磨くから、ありがたいことやと思いますねえ」(伊豆田さん)
04_和気あいあいとした事務所
【写真】04_和気あいあいとした事務所
これからの展開をたずねると、「こんな感じで自由に、オモロいことや”あったらええな“を形にして働ける場所が増えるとええな、と思いますね」という伊豆田さん。みのりのもりの活動はたしかに、思いさえあればどの地域でも展開できそうな活動が多い。例えば「右京じかん」という地域情報満載のフリーペーパーは、すでに他地域でも発行が始まっている。みのりのもりは、デザインとテンプレート、取材の方法など基本的な編集方針を提供するものの、制作はそれぞれの地域で行ってもらう。今のところ京都市内での発行がそのほとんどだが、最近は愛媛県で「愛媛中予じかん」が始まったという。
05_各地域で展開されている「右京じかん」の兄弟版
【写真】05_各地域で展開されている「右京じかん」の兄弟版
「右京じかん」に限らず、他の事業もどこへでも展開できる可能性がある。今後、日本各地のそこここに、地域の誰もが楽しめるオモロい場所がどんどん増えていきそうで楽しみだ。(文責:村上智子)

村上 サトコ

村上 サトコ

NPO法人コレクティブハウジング社サポーターズ会員。フランスの農家、知人宅を約1年わたり歩いて暮らして帰国後、シェアハウスに居住する。手ざわりのあるコトやモノに吸い寄せられる傾向があり、最近は玄米麹の味噌を仕込んだところ。 「シェアする暮らし」について 生きることは、シェアすることなんですよね。目に見えるものも見えないものも、近くのいのちも遠くのいのちも、持ちつ持たれつ、つながりつながれ。

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