都心から車でおよそ3時間。
市街地からだんだんと緑が深くなり、気が付くと急カーブの続く山道へ。この山道のむこうに今回の目的地、山梨県道志村はある。豊かな水源でもある道志川沿いに広がる道志村。この山あいの村で、2年前から取り組まれている、あるプロジェクトの全体ミーティングに参加した。
世代を超えて村を考える
道志村は人口約2,000人。約半数は民宿などの観光産業に従事しているという。そんな村もご多分にもれず、高齢化や若者の村外への流出といった課題を抱え、その対策が検討されているそうだ。しかし高齢者に対する行政サービスには質・量ともに限界があり、財政への負担も大きい。
相談を持ちかけられたNPO法人コレクティブハウジング社は、行政のサービスに頼る受け身のあり方ではなく、村民の支え合いをコミュニティの力や村民主体の事業的活動によって継続させ、誰もが村の暮らしを相互に支え、子どもも働き盛りも子育て中の親も高齢者も、村で生き生き暮らせるような村づくりをするためのアプローチを提案。これが受け入れられ、村の課題解決に向けてお手伝いすることになった。
村民が村の生き生きとした暮らしのために主体的に活動を生み出し、人のつながりで助け合う。題して「世代を超えて安心して暮らせるむらづくり」プロジェクト。若者も、高齢者も、世代を超えて村民同士で支え合うための人育て・村育ての取り組みだ。
プロジェクトでは当初から、村社会特有の意識、行政側の意識、古くからの村民と都会から田舎暮らしの良さに惹かれて移住した新村民との関係性など、一朝一夕では変えられないような問題を、話し合いなどを通してゆっくり解きほぐしながら進められているという。
村の課題を考え、行動する
プロジェクトにあたってまず行ったのは、現在の村の抱える課題を出し合い、自分たちのこととして考えること。
村民の要望で、まずはありのままを話し合えるように世代毎にワークショップを行い、それぞれに意見を出し合い、現在の暮らしや将来について、どんな不安があるか、自分たちの身の回りで起こっている問題を話し合った。
「村で安心して出産できたらいいのに」
「子どもが急に病気になった時、近くで見てもらえないのがつらい」
「自分のことが自分でできなくなったときどうしよう」
「今の若い人に自分たちの介護はムリなのでは」
「災害時には孤立する集落がある」
「車がなければ生活できない。運転できなくなったらどうしよう」
「村内に仕事がない。若い人も帰ってこられない」
そんなことをひとつひとつ挙げながら、村の未来について、ひとりひとりが参加して、考え、動く。プロジェクトの第一歩だ。
話し合いを重ねながら、だんだんと村での課題が具体的になってくる。
優先して取り組むべきとして挙がったいくつかのテーマ。
ここでは、そのうちの一つ、高齢者の居場所づくりの活動を紹介したい。
お年寄りが気軽に立ち寄れる「居場所づくり」のために
村では、徐々に一人暮らしが増えたり、家族がいても昼間は家の中で一人になっている人が増えている現状を踏まえ、皆が気軽に立ち寄れる「居場所づくり」を試みている。
まずは家の中に引きこもりがちなおばあちゃん、おじいちゃんたちを連れ出してみる。昔は縁側でお茶飲みをしていたお年寄りも、1人2人と周りでお友達が亡くなられると、だんだん外に出なくなっていく。畑がある季節は毎日畑に出かけるが、寒さの厳しい冬は家族がいても昼間は1人という人も多く、本当に引きこもってしまう心配もある。
そんな問題を解決するために出てきたアイデアは、50~60代のプロジェクトの活動メンバーが手伝って行う、お年寄り同士のお茶飲み会。しかしいきなり「出てきてお茶でも」といっても、見ず知らずだったり疎遠になっていたりするとなかなか参加しにくいこともある。
そこで皆で考えたのが、お年寄りにうどん作りを教わるという企画。かつては毎朝うどんを手作りして食べていたという話を聞いて「じゃあそれを教わろう」ということで、手打ちうどんを一緒に作る会をやってみることにした。これなら昔取った杵柄ではないが、お年寄りも主体的に参加できる。
自分が何かを教えられるという意識と、楽しく教えてもらいながら話し相手になってあげられる、持ちつ持たれつの関係性。
「腰を入れて生地を延ばすんだよ。若い人はやっぱり力があっていいね」
「昔は粉も自分たちで作ってたんだ」
「人に作ってもらって食べるのはお姫様みたいだねぇ」
「いえいえ今日だけよ。これからはお茶のみだけでも集まったらどう」
「それもいいねぇ。人のうちでない方が気軽でいいねぇ」
自分の経験を誰かに伝えるという一つの作業を通して自然とコミュニケーションが生まれ、思い出話にも花が咲く。とても美味しそうだし楽しそうな企画だ。こういった自然と人が交わる企画を通して、会話が生まれ、楽しければまた来ようという気にもなる。
すでにこの居場所づくりの取り組みは、地区ごとに行われているとのこと。
今回の定例会では、
「うちは芸能の達人がいるから面白いよ」
「うちはマンネリ化してきて。なにか刺激がほしい」
「そしたら今度うちの達人、連れて行くよ」
なんて話もあって、地区を超えてのやり取りも生まれてきそうだ。
「議論」から垣間見える真剣さ
このようにプロジェクトは地域の人が主役になってじっくり意見交換しながら行われている。一方で行政側も独自に外部に働きかけた結果、大学の研究チームや横浜市、NPOなど、さまざまな立場の人が、調査や協力に名乗りを上げているという。
村民の間からは「私たちがこんなに地道に取り組んでいるのを知っているのに、なんで行政が我々に相談もしないで物事を進めるのか」という意見が出たり、縦割り行政の悪い面として役場内の各課の連携に問題があってなかなか活動が思うように進めにくかったりと、村民と行政側が一緒に話すミーティングでは熱を帯びた刺激的な場面も垣間見えた。
しかし、当事者が白熱するというのはそれだけ真剣に取り組んでいるという証。
真剣な村民と、変わっていこうとする行政的立場、どちらもこの村に住む、村をよくしていきたいと考える当事者だ。
老若男女が関われるプロジェクトの数々
今回、限られた時間の中ではあったが、ミーティングは村民の皆さんの熱気は十分に伝わってくる場だった。取り上げたプロジェクトも現在の一断面に過ぎず、他にも具体的な取り組みが行われている。
古い慣習を見直して今の生活スタイルに添い良い伝統は後世に伝える方法の検討、新しい村民を外から呼び込むための村のPR活動、交通手段のない人への支援としての買い物ツアーや、使う立場からの路線バス会社との交渉、さらには村民発の支え合いの具体的方法としてコミュニティビジネスの勉強会など。老若男女それぞれの立場で関われるプロジェクトだ。
村全体として見れば参加者はまだまだ一握りだが、参加する村民は確実に増えている。そして、行政への働きかけ、口コミ、広報によってさらにその意識は広がっていくだろう。
外からの支援の声も多い恵まれた環境もできつつあるが、いずれにしても根底にあるのは村民自体が自分たちの問題として真剣に取り組む姿勢。世代を超え、村という枠組みさえ超えての支え合いの試み。この村の取り組みと変化からは、今後も目が離せない。【了】
文責:山口健太郎
【参考サイト】
中山間地域の暮らしづくり支援とは?
(NPO法人コレクティブハウジング社のページ)