“シェアする暮らしの実践者に学ぶスタディツアー”レポート

JR中央本線で新宿から1時間。神奈川県北西部の森と湖に抱かれた相模原市藤野地区。なだらかな里山に囲まれ、パーマカルチャー、アートビレッジ、シュタイナー学園もあり自然志向が高い人が多く移住し、新旧入り交じる町。 ここでは今、持続可能な生き方を実践する「トランジション藤野」という草の根市民運動の取り組みが活発だ。

 

去る20131013日(日)、そんな藤野の活動の実践者に学ぶスタディツアーを開催した。お話を伺うのは、地域通貨、自然エネルギー、そして持続可能な暮らしを実践する4世帯コハウジングと盛りだくさん。「取材記事をお届けするだけでなく、実践者の暮らし方・考え方に直接触れて、相互に学び合う機会をつくりたい」という思いから企画したイベントである。「シェアする暮らしのポータルサイト」としては、初の試みとなる読者参加型のツアー。さてさて、その様子は——? プログラムの最後に参加者全員で行ったレビューセッションを中心にレポートする。

 

 

スタディツアー概要のご紹介

 

【ツアープログラム】

 11:00 地域通貨「よろづ屋」のお話 池辺潤一さんより@無形の家

 12:00  昼食@韓国料理「藤野倶楽部 直子の台所」

 14:00 「里山長屋」のお話 山田貴宏さんより@里山長屋

 15:00 「藤野電力」のお話 小田嶋電哲さんより

 16:00 全体レビューセッション 進行役:影山知明

 18:00 懇親会

 

【お話しいただいた方々】

池辺潤一さん/スタジオikb+代表。地域通貨「よろづ屋」事務局。トランジション藤野中心メンバー。藤野在住。

小田嶋電哲さん/ 市民団体「藤野電力」代表。藤野在住。

山田貴宏さん/ビオフォルム環境デザイン室代表。持続可能な農的暮らしを実践する4世帯コハウジング「里山長屋」の建築設計者であり住人。(以前の本サイト取材記事はこちら:2011117日掲載「エコロジーでつながるコミュニティのかたち 里山長屋」

影山知明/「クルミドコーヒー」店主。「シェアする暮らしのポータルサイト」代表。

 

 

 それぞれの気づきと学びー全体レビューセッションから

 

充実の一日を終え、参加者それぞれがどんなことを感じ、考えたのかーー。夕方から、全員で車座になって感想や意見交換をするレビューセッションを行った。なお、今回の参加者は18名。コレクティブハウスなどでのシェアする暮らしの実践者は約半数ほど。山田さんと小田嶋さんにもご参加いただいた。

 

 

「人に何かを頼める人」を称賛するという価値観

 

<レビューセッションの1コマから>

「今日はどこでお話を聞いても、皆さんそれぞれが出来ること、関心のあることをやりながら自然体で生き生き暮らしていると感じましたが、なぜ藤野ではこういう“良い感じのコミュニティ”が作れているんでしょうね?」

 

「 “人に何かを頼める人を称賛する”という、人との関わり方の前提が一つあるのかな、と思いました。地域通貨よろづ屋で伺った、“通帳残高のマイナスが増えていく人は、いろんな人に何かを頼んで誰かのプラスを生み出している、すごくありがたくて大事な人。”という言葉がとても印象的で。」

 

「私も、あの話には深い感銘を受けました。できることでお互いがお互いを助けあう、そういう関係が当たり前なんだよ、というベースがあるとすごい安心感ですよね。」

 

地域通貨よろづ屋においては、通帳を使って「お互いさま」のやり取りを記録している。例えば、七五三の衣装を借りる人はよろづを「支払う」ことになるから、「-2,000よろづ」。貸した側の通帳には「+2,000よろづ」が記帳されるという具合だ。

 

地元の方々向けの「よろづ屋」の説明会に参加させていただく@古民家「無形の家」にて。

地元の方々向けの「よろづ屋」の説明会に参加させていただく@古民家「無形の家」にて。

 

「人に何かを頼める人」を称賛する、という価値観は、多くの参加者にとって印象深い話だったようだ。よろづ屋事務局の池辺さんは、「損得、プラスマイナスといった概念を変換したい、という思いでやっている。地域の中でお互いの力を引き出し合うことが、皆で豊かに暮らすということだと思うから。」と語られていた。そんな思想の地域通貨が流通し、顔の見えるつながりが大事にされていることも、藤野という場所が生き生きと感じられる理由の一つなのかもしれない。

 

こちらが通帳。野菜の交換や駅への送迎など、小さな頼みごとを気楽にしあえる。

こちらが通帳。野菜の交換や駅への送迎など、小さな頼みごとを気楽にしあえる。

 

 

自らの暮らしは自ら作る、そんな活動が藤野に集まる理由とは?

 

<レビューセッションの1コマ>

「藤野電力の小田嶋さんに伺った、“電力は相当高級なエネルギー。ソーラーパネルを使ってみれば、電力を作り出すには膨大な別のエネルギーが必要だと分かる。湯水のように使うなんて、僕にはエルメスのスカーフで雑巾がけをするような違和感があるんですよ。”という説明も衝撃的でした。」

 

「これは、実際に自ら電力を作っている方だからこその言葉だと思う。藤野電力は3.11がきっかけで生まれた活動ということだけれど、私も自然エネルギーのことをいろいろ考えたものの、だからといって、じゃあ自分たちで作ろう!という行動には結びつかなかった。」

 

藤野電力が主として取り組んでいるのは太陽光発電だ。パネルとバッテリーバンクとインバーターを組み立て、独自の発電システムを構築している。当初はお祭りやイベント時の電力供給方法として取り組まれたそうだが、今では自宅のエネルギーシステムに組み込まれたり、「市民発電所」としてのネットワークを組み始めたりなど、2年半で活動が大きく進化している。

 

 

藤野を歩けば至るところで見かけるソーラーパネル。もちろん里山長屋にも。

藤野を歩けば至るところで見かけるソーラーパネル。もちろん里山長屋にも。

 

「そんなふうに、電力供給の仕組みまで自分たちで作ろう、と立ち上がれたのはどうしてなんでしょう。賛同してくれる同志がいたから、ということなんでしょうか。」

 

—小田嶋さん「それはありますね。藤野電力が生まれた“トランジション藤野”の人たちって、社会や暮らしの課題に対して悲観することなく、楽しみながらポジティブに解を創っていくんです。課題意識を共有して一緒にやれる人がいれば、自分たちの暮らしってどんなふうにでもデザインしていけると思うんですよね。」

 

藤野でお話を伺うと、必ず何度かは耳にする「トランジション藤野」というワード。これは、化石燃料に頼る暮らしから、
自然との共生を前提とした持続可能な暮らしに
移行していく活動のことで、藤野電力も地域通貨よろづ屋も、この活動から派生したものだ。「なぜ藤野でこんなにいろいろな活動が広がるのか?」という問いが参加者からも何度か出たが、「トランジション藤野」が地域に土壌としてあったということが、理由の一つに挙げられる。

 

市民電力のワークショップなどで全国を飛び回っている小田嶋電哲さん。

市民電力のワークショップなどで全国を飛び回っている小田嶋電哲さん。

 

 

家も、人も、パッシブデザインで関係性づくり

 

<レビューセッションの1コマ>

「山田さんからの“里山長屋”の設計のご説明も圧巻だった。特に、太陽の熱や周囲の環境からの空気、風の流れなどを家の中に取り込む“パッシブデザイン”※で、エコロジカルで快適な暮らしを設計しているというのがすごい。こんな家に住みたい!と思いました」※詳細については、山田さんのWEBサイトおよび書籍をご参照ください。

 

例えば里山長屋では、蓄熱にすぐれた土壁を使ったり、太陽熱を集熱する仕組みを活用したりすることで、電力・ガスをあまり使わず、夏でも冬でも快適な室内環境を実現することに成功している。気密性を高めてエアコンで温度管理する多くの都市住宅とは違う、太陽、風、雨…、など自然の力を活かした、自然と調和した家づくりの形がここにある。

 

太陽の光と熱を取り込み蓄熱する仕組みなど、考え尽くされた設計に一同うなるばかり。

太陽の光と熱を取り込み蓄熱する仕組みなど、考え尽くされた設計に一同うなるばかり。

 

「私も。家を建てるプロセスも、できるだけ地元産材を使い、地元の職人さんと作っていったというお話でしたが、“今ここ“にあるものを生かして共存しよう、っていう発想がすごくいいですよね。でも何だかこれって家に限らず、人と人との関係も同じかも知れないなあという気がします。」

 

「たしかに。いろいろな個性のある多様な他者を上手に受け入れる姿勢って、言わば“人との関係性のパッシブデザイン”とも呼べるかもしれませんね。」

 

あるがままを生かして、その中で、周囲にあるもの(環境、資源、暮らす人など)と有機的、多層的につながりを築きながら生きていく、ということ。そんな暮らしの実践者の暮らし方、考え方を知ると、家の設計も人との関係性づくりもすべて、生き方の一つの形なのだと実感させられる。自分たちの本当に在りたい暮らしって、何を大事にして、どんな場所で、どんな家に、どんな人たちと暮らすことなんだろう?——あらためて主体的にデザインし直そうとしてみると、本当に大事にしたいことが新たに見えてくるかもしれない。

 

里山長屋では、大学との共同研究で電力消費量をリアルタイムにウォッチしているのだそう。

里山長屋では、大学との共同研究で電力消費量をリアルタイムにウォッチしているのだそう。

 

以上、レビューセッション内容の様子をいくつかご紹介したが、ここには書き尽くせないほど、参加者それぞれに多くの気づきと発見のあったスタディーツアーとなった。最後に参加者からいただいた感想アンケートには、「小さなことでもいいので、何か自分の生活の仕方や、人とのコミュニケーションの仕方を変えてみようと思った」という声が多数挙がっており、「実践者」の方の思いや考え、そのリアルな暮らしぶりに触れられたことの力をあらためて感じている。

 

一方で、いただいた気づきが豊富にあり、セッションでも十分に深めきれなかった問いもいくつか残っている。たとえば、セッションの最後のほうで出てきたこんな問いがある。「藤野という街の魅力/街とそこに暮らす人たちの関係性はいろいろ見えてきた。では、自分/自分たちの街の魅力、街とのつながりはどうなのか?」というものだ。藤野は、藤野の中にある資源や価値を上手に生かしながら、現在の形に発展してきた。であれば、藤野だけが特殊なのではなく、どの街でもそれぞれの街の特色を生かした「暮らし方のデザイン」があるはず——。

 

それぞれのやり方で、人や、街や、周囲の環境との関係性の築き方をあらためて考えていきたい。今回得られた学びを生かしながら、今後もツアーやレビューセッションのような場を企画していこうと考える事務局に、ぜひご期待いただきたい。

 

 

関連イベントのお知らせ

 

今回のツアー報告も満載の、「シェア・ラボ 〜記事お披露目会vol.2〜」2013124日(水)19:30より開催いたします。当日はスペシャルゲストに、里山長屋の設計者であり居住者である
山田貴宏さんをお迎えいたします。どうぞふるってご参加ください。

 

 

(おまけ:写真で見るスタディツアーの様子)

もしご興味があれば、充実のツアーの様子をもう少々ご覧ください。

 

当日は気持ちのよい秋晴れ。総勢20名弱が朝一で藤野駅に集合。

当日は気持ちのよい秋晴れ。総勢20名弱が朝一で藤野駅に集合。

 

まずは地域通貨よろづ屋の説明会へ。会場は古民家を改装した「無形の家」。

まずは地域通貨よろづ屋の説明会へ。会場は古民家を改装した「無形の家」。

 

地域通貨「よろづ屋」の通帳。貸し借りを手書きで記入していく。

地域通貨よろづ屋の通帳。貸し借りを手書きで記入していく。

 

ランチは藤野の山並みが絶景の「直子の台所」へ。ごはんも空気もおいしい!

ランチは藤野の山並みが絶景の「直子の台所」。ごはんも空気もおいしい!

 

里山長屋設計時には「地元住民参加型のワークショップ」なども頻繁に開催したのだそう。

 

雨水も無駄にせず貯水してトイレの排水や畑の水まきに利用する里山長屋。

雨水も無駄にせず貯水してトイレの排水や畑の水まきに利用する里山長屋。

 

リアルな暮らしぶりに聴き入る。野菜の育て方は各者各様で、ほったらかし自然農園もあるとか。

リアルな暮らしぶりに聴き入る。野菜の育て方は各者各様で、ほったらかし自然農園もあるとか。

懇親会では、畑の穫れたて野菜たっぷりのピザをごちそうに。美味しかったです!

懇親会では、畑の穫れたて野菜たっぷりのピザをごちそうに。美味しかったです!

 

村上 サトコ

村上 サトコ

NPO法人コレクティブハウジング社サポーターズ会員。フランスの農家、知人宅を約1年わたり歩いて暮らして帰国後、シェアハウスに居住する。手ざわりのあるコトやモノに吸い寄せられる傾向があり、最近は玄米麹の味噌を仕込んだところ。 「シェアする暮らし」について 生きることは、シェアすることなんですよね。目に見えるものも見えないものも、近くのいのちも遠くのいのちも、持ちつ持たれつ、つながりつながれ。

あわせてどうぞ