ベルリン市中央に位置するミッテ地区のはずれ、シュプレー川沿いのこのエリアは、東西ドイツ統一前には国境に位置していたため「忘れ去られた場所」として長らく空き地だった場所だ。近年では、中心部から電車で15分と便利なこともあり再開発がすすみ、駅から歩く道すがらも至るところが工事現場だ。工場や電力会社の建物などが並び住宅街という趣はないが、川沿いに出ると突如3棟のスタイリッシュな外観が目に飛び込んできた。
外観。敷地面積は約6~8,000平方メートル ⒸAndreas Trogisch
Spreefeld Berlin(シュプレーフェルト・ベルリン)は、いわゆるコーポラティブハウジング方式の住宅プロジェクト。3棟がそれぞれ、ファミリー・若者世代・リタイア後のシニア世代と分かれており、総じて大人80人(35歳~70歳)子ども20人が住んでいる。竣工から3年経った現在の暮らしぶりを拝見しに訪れた。
自分たちが望む住まいをつくる
そもそもの成り立ちは遡ること約10年前、建築家やデザイナーなどクリエイティブな志向をもった8人の発起人が土地を共同購入し、自分たちが望む住まいをつくろうとはじまったプロジェクトだという。「住む・働く・カルチャー」をミックスさせる暮らしをしようというコンセプトで集合住宅を建てるということをクチコミで呼びかけたところ、各地から希望者が集まり80~90人のアソシエーションができた。
事業の特徴としては、買って100%所有する「フリーホールド」でも、賃貸「レント」でもなく、昭和50年代日本でも流行った「グループ分譲制度」に近い形式をとっている点。初期の建築費用や土地購入費用は、このプロジェクトのために結成された協働組合が銀行から融資を受ける。入居時、個人はまず全額のうちの半分を支払い、残りの半分を月々ローン返済していく。
建物は環境にも配慮された設計で、屋上にはソーラーパネルが設置され、ハウスの電力の一部を賄っていたり、セントラルヒーティングのための手作りボイラーがあったりと、なかなか個人ではもてない設備が充実している。
作品展示、ヨガ、タンゴ教室などさまざまな用途で使われているあえて未完成のままのオプションスペース
3棟ある建物の1・2階部分はなんらかの共有部となっており、居住者のための共有キッチン&ダイニングだけでなく、外部へも貸し出しているオプションスペースや、プロ仕様の工作室・オフィススペースなどが配されている。また、市が運営する保育所のためにも建物の一角を提供している。
共有キッチン&ダイニングでは定期的な共同の食事作りのようなことは行われておらず(月一回程度ゆるやかに集まって食べることはある)、居住者でありケータリングの仕事をしている夫婦がメインで使っており、いわばここも仕事場として使われている。
運営の仕組み
このような潤沢なスペースを外部へも貸し出しているが、外と内あるいは内部の運営はどのように成されているのだろう?当初からここに住んでいるナウカさんにお話しを聞いた。
「私たちは居住者組合をもち、6~8つの活動グループ をつくって自治運営しています。ガーデニンググループやゲストルーム管理グループ、それに文化グループがレンタルスペースの貸し出し事務局を担っています。1グループにつき3~4人で構成され、居住者はいずれかのグループに所属しなければなりません」
月一回、第一月曜日に全体での定例会がひらかれるという。2時間ほどかけてスモールグループからの報告や必要に応じて承認事項が話し合われ、参加率は半分以下だそう。参加率が少ないのでは?と質問してみると、子どものケアや高齢者の体調やそれぞれ理由があってのことだからと、さほど参加の義務にはこだわっていないようだ。
スモールグループはそのときどきのテーマで生まれたり消えたりする。例えば数年前からドイツでは難民の問題が浮上しているが、いち早くここのコミュニティは反応し、難民グループを立ち上げ、今でも2つの部屋を難民の方に使ってもらっているという。
分譲型のため、めったに退去者はでないそう(これまでに1組のみ)だが、人気のプロジェクトのため入居希望者が殺到し、どうやって希望者のなかから選べばよいかが目下の悩みだそうだ。
シュプレー川のほとりで
敷地内を案内してもらっているときにナウカさんが「おもしろいものを見せてあげる」と手招きした。「Boat Haus」と書かれた看板のある階段をおそるおそる降りていくと…
なんとそこはボートが収容された小屋であった!
聞くとこの小屋は当時、国境警備隊が見守りのために使っていた国の所有物だったが、この土地を購入したときに譲り受けたそうだ。せっかくだからとボートを共同購入し、さらに住民の2割が船舶免許をとったというのだから、その心底遊ぶ心意気には感服した。
対岸のエリアは、旧東ドイツの火力発電所跡地を利用した世界最高峰のクラブと評価される「ベルグハイン」をはじめ、世界の若者を引きつける大小さまざまなクラブや隠れ家バーがあり、このボートハウスもそういった若者たちがギャラリーやパーティルームとして使うこともあるという。
敷地内から地続きの小道をさらに進むと、「Teepeeland」と書かれた手作りのティピィが立ち並ぶ、まるでヒッピーのコミューンのようなゾーンがある。ナウカさんによると、目の前にある元アイスクリーム工場を住居に建て直す計画があり、着工までの期間、市からも認められてこのゾーンにただで住んでいるそうだ 。
「彼らともコミュニケーションをとっているから(ここにいることは)気にならないわ」とのこと。
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集まって住むだけではきっとこうはならない。暮らしや遊びをつくっていこうという心が豊かさを生む。都会で豊かに暮らすお手本がここにあった。
【了】
文責:山下ゆかり