東京・世田谷区砧に、マンションをまるごとをコミュニティガーデンとして住民や地域に開いていくプロジェクトが立ち上がったと聞き、訪れてみた。その名も「たぬき村」。2011年4月に始まったばかりなので具体的に形になっているものはまだ少ないため、まずはプロジェクトの全体像を聞いてみた。
出てきたのは、何とこの模造紙。用紙いっぱいに何ともなんともワクワクする構想が所狭しと描かれている。
築30年以上。荒れ放題の庭から縁が始まった
プロジェクトの代表である矢田陽介さんは造園が専門。自身の庭作りの拠点を探していたところ、世田谷区砧にあるマンション(通称「たぬき村」)の管理人・住民と知り合う機会があり、荒れ放題の庭を手入れするようになった。
このたぬき村、築30年は下らない大変古いマンションであるが、住民同士がみな顔見知りで、住民たち自らがいろんな試みを仕掛けている、面白いマンションである。コモンルームと呼ぶ共有の部屋をマンション内に設けて、皆でその部屋づくりをしたり、イベントを開催して近所の人を呼んだり。
ちなみに「たぬき村」のたぬきは、砧のアナグラムと、もう一つはたぬきは縄張り争いをせず共存して暮らすことから命名されているとのこと。そんなマンションに、矢田さんは結婚を機に移り住み、このプロジェクトを本格的にスタートさせるに至っている。
単なる庭の整備に留まらず、ここをコミュニティガーデンにしていこうと考えた矢田さんは、こう語る。
「地域と人と自然がつながるプラットフォームがあれば、もっとお互い助け合えるし、楽しいコミュニティーができてくると思うんです」
「一人で閉じていても面白くないんですよね。できることなんて限られている。みんなで集まると断然楽しいし、思いもよらないことが出来てしまうんです」
矢田さんはワクワクする楽しさを原点に、庭造りを通じて、人と人をつなげ、この砧のコミュニティーを変えていこうとしているようだ。
菜園、ツリーハウス、販売小屋・・・
では、何が具体的にここでは始まろうとしているのだろうか。マンションの庭を見せてもらった。
マンション入り口付近は、ちょっとずつ整備されてきて菜園に。ベリーや小松菜やハーブやらが細々と植えられている。
まだまだ構想段階だが、奥にある大きな木にツリーハウスを作ったり、シイタケづくり、はたまた、作ったものをご近所に売る販売小屋計画まである。屋上も活用できないか、とマンションまるごと含めての構想である。さきほどの模造紙計画には、そのあたりのイメージがしっかりと絵になっている。
住民も少しずつ巻き込んで進むプロジェクト
このプロジェクト、母体は矢田さんが代表を務める「パーマカルチャーガーデン世田谷」というチームであるが、マンション住民も少しずつ参加を始めている。
先ほどの模造紙プロジェクト図を書くときには、チームメンバーだけでなく、住民にも一人ひとり自分の絵を書き込んでもらって、構想を一緒に練り上げたとのこと。みんなで集まると、次から次へと楽しい発想が湧き上がってきたのだそうだ。
「遅刻だー」と自転車を漕ぐ男の子。庭でつくったものをおいしそうに食べる女の子。おばあちゃんや子どもも登場する。みんなで描く未来像がこの模造紙にはいっぱい詰まっている。
この夏から秋にかけては、住民も参加してのコンポストづくりワークショップや、ベランダ菜園ワークショップ、さらにはエネルギーを考える勉強会なども企画されている(風力発電でマンションの電気をまかなう、という夢も語られているとのこと)。
矢田さんによると、「まだ住民のみんなは、菜園にちょっと遠慮がある感じ。矢田さんが作ったものだから、という意識があるから。僕としては、勝手に実をつまんで食べてもらいたいんですけどね(笑)」
これからいかに住民が自分たちのものとしてこのガーデンプロジェクトに参加していけるかが、成功の鍵を握ることになりそうだ。
近所の庭にもつながる「たぬき村通り構想」
たぬき村プロジェクトの対象は、マンションだけにとどまらない。
「ご近所同士の庭をつなげていったら、もっと出来ることが広がる」と矢田さんの構想はどんどん広がっている。
「近くのお寺も巻き込んで”たぬき村祭り”をやったり、ご近所同士を庭でつなげて、前の通りを”たぬき村通り”にできるといいな、なんて考えているんですよ」と、ニコニコ顔で語る。
庭を通じてご近所同士の交流が深まり、地域の子どもがたぬき村に遊びに来たり、お互いの庭作業を手伝うようになったり。数年後には、そんなことが日常的にこの地域では起こっているかもしれない。それだけに留まらず、全く新しい地域での助け合いやライフスタイルのあり方が、ここから生まれてくるかもしれないと感じさせる。
最後に矢田さんが言っていた言葉が印象的だった。
「みんなが集まるとミラクルが起きるんです」
ここには、ワクワクする楽しさと、みんなが集まるからこそ起きるミラクルがたくさん詰まっている。まだ始まったばかりのプロジェクトではあるが、これからの進展が本当に楽しみだ。また近々訪れて、そのミラクルの様子をお伝えできればと考えている。【了】
文責:伊藤直子