シェアする暮らしin京都・前編ー30年続くコーポラティブ住宅「ユーコート」

「生活者が主人公になる、新しい京の町家をつくりませんか?」
1982年春、そんな呼びかけにお互い見ず知らずの48世帯が集まり、京都市郊外に共同でマンションを建てて住まうことになった。「コーポラティブ住宅」という住まい方である(※1)。欧米では普及している住宅方式だが、日本でもいくつかの事例がある。中でもユーコートは、竣工後30年と歴史ある事例だ。

※1:専門的には、住宅都市整備公団(現UR)の所有する土地を「グループ分譲制度」という制度を利用して共同購入、自分たちで土地を買わなくても公団にローンを支払う形で自由設計できるという仕組み。

 

01_緑あふれる中庭は子どもたちの遊び場、住人たちの憩いの場だ

緑あふれる中庭は子どもたちの遊び場、住人たちの憩いの場だ

 

まずは、設計段階ではコーディネーターとして参加していたはずが実際に住人として住むことになったという平家さんから、ユーコートの概要と歴史を聞く。「僕はね、元々一生賃貸派で持ち家はいらないと思ってたけど、設計プロセスであれこれ議論しているうちに、この人たちいい人たちだな、一緒に暮らすのもいいな、って思ってしまって(笑)。居住希望者を集めなくちゃいけなかったし、ほな、いっそのこと住んでしまおうか、で今に至るんです」

コーポラティブ住宅に暮らす魅力は、建物というハード面では、一世帯で土地を購入して家を建てるよりも、立地や設備、広々した共有部など良質な住環境が得られること、その設計プロセスに参加できることが挙げられる。ユーコートも、敷地内の設計にはじまり、各住戸のどこに誰が住むのか、共有部をどうするか、マンションの管理・運営をどうするのか…などなどなど、すべてを居住者が話し合いで決めていった。竣工までの間、実に3年10ヶ月をかけて、どんな暮らし方がしたいのかを話し合うワークショップを何度も重ね、途中で無数の紆余曲折を経てようやく完成に至ったという。(このプロセスの詳細は、「マンションをふるさとにしたユーコート物語ーこれからの集合住宅育て」(昭和堂、2012年)に詳しい。その後のユーコートの今についても丹念に紹介し考察している)

平家さん曰く、「住戸の位置決めなんか、半年かかりましたから(笑)。48軒すべてを、くじは使わずに全部話し合いで決めたんやけど、これがもう、そら大変で。みんな自分の希望もあるし購入予算もある。でも話し合いで決めるとなると、少しずつ各自が条件を譲り合ったり、予算だけがネックという家の分はみんなで負担することにしたりして」。そんな長期にわたる「あれこれ議論」のプロセスで、お互い初対面だった48世帯同士の信頼関係も育まれていったという。そうして決まった48軒の各住戸の1軒1軒は自由設計。いろりのある家や、リビングダイニングと寝室がすべて一部屋という個性的な家もある。マンションでありながら持ち家のような感覚だ。ベランダだけは続いていて垣根なしの付き合いができるし、緑あふれる中庭や、集会室、階段などの共有部を広くとって充実させている。

 

02_いろりのあるお宅は個性的、右手にある階段は屋根裏風スペースに続く

いろりのあるお宅は個性的、右手にある階段は屋根裏風スペースに続く
コーポラティブ住宅の魅力は、こうした建物のハード面だけではない。ご近所同士、顔見知りの中で暮らす安心感や、子育てなど相互サポートができること、マンションの共同運営を通じて濃い人間関係が築けることなど、ソフト面も大きな要素だ。夏祭りなど年に数回は全体で季節の行事を行うし、子どもたち同士は兄弟のようにして育つ。

平家さんご自身の趣味はチェロだが、自宅を開放して生演奏を楽しめる気軽な会、「おうちでコンサート倶楽部」を主催しているそう。子連れで何度も参加しているという幸さんは、「子どもOKって言ってもらえるのがすごいありがたくて。床に耳つけて聴いてもいいよ、とか言うてくれるし、かしこまったコンサートに行けなくても生演奏が聴けるのはうれしいですよね」。そうしたさまざまな付き合いを通して、ユーコート全体に「お互いがお互いをなんとなく気にかけ合っている、穏やかな見守り感」があると平家さんは言う。

もちろん、共同運営するからには住人としての仕事もある。1つはクリーニング、中庭・池の清掃管理。2つ目は、全体行事の際の食事づくり。3つ目は、月1回の管理組合・理事会と、年1回の総会への参加だ。どれもあくまでも任意参加だが、参加率は高いという。それだけ各世帯が、マンションの運営に主体的にかかわっていることが伺える。

何か問題があれば住人全員にオープンにし、定例会議や当事者同士の話し合いで解決するのが基本だ。例えば、B棟に住む一人が体を悪くしたことを機にB棟に手すりの設置を決めたり(直接的にはメリットのないA棟、C棟の住人も賛成して実現)、ベランダを介して犬猫がよその家に侵入してしまう問題が起こっても、話し合いでクリアしたり。ハード面もソフト面も、その時々の状況に合わせてゆるやかに変化している。

平家さんは、そんな柔軟さが安心感につながっていると言う。「何かあったらその都度みんなで話し合って超えていったらいい。人間歳やない、100歳でピンピンしとる人もおるし、毎日誰かとかかわりあって、やりたいことして楽しく暮らせば長生きできる。ここに死ぬまで住んでいくのは楽しみなんですわ〜」

とは言え、入居当時30〜40代だった初期メンバーが今は60〜70代のシニア世代となったユーコート。子どもが総勢100人近くいた頃のにぎやかさはなくなり、ひと頃は「どうしたん?て思うほど静かになってしまった」時期もあったという。
 
そこで若い世代の住み手を増やすため空き家が出た際の入居ルールを変更、ここで生まれ育った子どもたち(「第二世代」と呼んでおり30代が中心)が優先入居できるようにした。進学や就職で一度離れたあと、子育て世代となった第二世代には再び戻り住みたいという希望者は多い。このおかげもあって今はユーコート内に7軒、隣の公団住宅に暮らす世帯も合わせると約14世帯の第二世代がユーコート周辺に暮らし、再び中庭に子どもの声が響くようになっている。

 

03_広々とした集会室、会議では卓球台が机に早変わり

広々とした集会室、会議では卓球台が机に早変わり

 

小学3年生から大学卒業までユーコートに暮らした幸さんは、出産を経て、隣の公団住宅に越してきた第二世代だ。今も実家はユーコート内にあり、頻繁に行き来する。「やっぱりね、自分が子育てするようになって、この環境がいかに良かったかを実感するようになって。自分の子もここで育てたいと思って越してきたんです」

ここで育ってよかったと思うことは何だろう?「いろんな大人や子ども、多様性の中で育ったことですね。うちの親なら怒るところを他の親には褒められたり、家ではベロベロに酔っぱらってるおっちゃんが実は大学の先生やって知って、どんな大人もいつも聖人君子ってわけでもないな〜、と思えたり。社会に出てどんな変わった人に会っても、“あ〜、こういう人おるおる“って免疫があって、どこでも適応できる能力が身についたんはこの環境のおかげかなと思います」

幸さんのお母さまであるひろ子さんも「この子たちを見てると結果的にこの環境は良かったんだな、と思いますね。48世帯ほとんどが共働きだったんで、子どもはみんな一つ窯の飯を食べて育った感じで。いろんな大人がそれぞれの価値観で関わってくれるのも、親としてはありがたかったですね」と話す。

こんなふうに、ゆるやかでいて家族のような濃い付き合いのある暮らしを続けてきたユーコート。「これから」について思うところをたずねると、12年前に赤ちゃん連れで入居して、今では3人のお子さんを育てる第二世代の伊藤さんがこう答えてくれた。

「私は、両親も初期メンバーではなく途中で近所から移り住んだんですが、外から見るとユーコートは“ちょっと特殊な場所”で。例えば、普通の学童は地域の児童館なのに、ユーコートは子どもが多いから敷地内の集会所が学童だったり、庭も楽しくて魅力的だったり。今、大人の目から見ても、ややもすると少し排他的だと感じさせる部分はあると思います」。幸さんも続ける。「そうそう。私たち第二世代は、もう少し地域に開いてつながっていくことが必要じゃないかなと思ってるんです。子どもたちは学校の友達とか、当たり前のようにユーコート外とつながってるし」。

ただ、親たち世代の中には、“誰でもかれでも来るようにしたら、何かあった時に誰が責任を取るのか“、”あんまり外部からかき回されたくない“など、いろいろな思いもあるのだそう。「これまでの世代がつくってきた今のユーコートの在り方と、私たち世代がこうしていきたいと思う状態とは、少し違う部分もある。でもこれを毎月の会議で議題にできるかというと今はまだ少し難しくて、これからの課題かなと思いますね」(幸さん)。

いずれも、今後この場所をどう育てていくかという課題。30年間ここで暮らしを大切につくり続けてきた、成熟したコミュニティならではのテーマだ。けれどそこは幾多の問題を乗り越えてきたユーコートの面々のこと、ぶつかったり時間はかかったりしてもきっと、皆が納得できる方法を生み出していけるのだろう。日本のコーポラティブハウスとしては有数の歴史を持ち、赤ちゃんからシニア世代まで、これまでになく多様化したユーコートのさらなる進化に、私たちはこれからも学ばせていただきたいと思う。(文責:村上智子)

 

村上 サトコ

村上 サトコ

NPO法人コレクティブハウジング社サポーターズ会員。フランスの農家、知人宅を約1年わたり歩いて暮らして帰国後、シェアハウスに居住する。手ざわりのあるコトやモノに吸い寄せられる傾向があり、最近は玄米麹の味噌を仕込んだところ。 「シェアする暮らし」について 生きることは、シェアすることなんですよね。目に見えるものも見えないものも、近くのいのちも遠くのいのちも、持ちつ持たれつ、つながりつながれ。

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