「こどものまち たま」(以降、こたま)とは、子どもがつくる小さな仮想の“まち”多摩市版。
実はこの“こどものまち”の取り組みは、ドイツのミュンヘン市で30年前に始まった『ミニ・ミュンヘン*』がルーツ。それが日本各地に広まり、今ではあちこちの地域・団体でかたちを変えて行われるようになった模様。
こたまとは?
子どもだけの小さなまちで、いったいどんなことをするのでしょう?
こたまの主役は子どもたち。スタッフの大人はいますが、親は入場できません。参加したい子どもたち(*小中学生)は、会場に来るとまず、こたまのルールやコミュニケーションに関してオリエンテーションを受けます。学び終わると市民証が発行され、晴れて市民の一員となります。こたまには、工房や商店・役所などの仕事があり、仕事をするとこたまの通貨がもらえます。それを使って自由に、商店で買い物したりゲームコーナーで遊ぶことができる、というもの。
活動のなかでは、他の子どもたちと協力したり、時には意見がぶつかる場面がでてきます。そんな時こたまでは、毎日開催される“市民ミーテイング”でまちをどう運営していくのか話し合いで解決します。
スタッフ代表の矢田さんは「子ども同士、大人の固定化した価値観から離れて、自分たちの価値観に自由になって発想し、行動してみる。そうした疑似社会体験を通して、”まち”に主体的に参画していく楽しさを感じてもらいたいと思っています」と語ります。
大人顔負けの“市民ミーティング”
正味1.5日間という短い会期のなかでも、計3回の市民ミーティングが行われ、有志の市民が集まって話し合いが行われました。
アジェンダは大人スタッフから設けるのではなく、子どもたちから「なにか気になっていること」「話し合いたいこと」をあげてもらいます。まちを考えるワークショップを通じてでてきた「こたまにも警察・交番が必要」という意見から、新しく“おしごと”が追加されたり、「銀行に預けている預金に利息をつけてほしい」という意見に対しては、少人数の市民ミーティングだけではなかなか意見がまとまらず、全員参加で話し合った結果「否決」されるなど、対話で解決する機会が生まれていました。
子どもたちからの提案のなかには、まちの運営に関する改善点や要望などもしっかり出てきた。
一方で、そんな経緯で新設された交番では「仕事がないから暇」といって、泥棒役をちらしで募集したり、大人スタッフを泥棒に仕立てて即席の手錠をかけて牢屋に入れたり…なんという一幕も!一般的には、監視が強化されると安全性が高まるはずなのに、こたまでは逆の現象が(苦笑)。
まっさらな状態から ~商店とゲーム屋の場合
商店とゲーム屋はまさにカオスでした。なぜならこの2つは、開場当初は、ブースにまったくなにもない状態からスタートするのです。売る商品もなく何をしたらいいの?と戸惑う子どもたち。取りあえず手持ち無沙汰に、お店の看板や装飾をつくってみたりしますが、これでは一向に商売になりません。大人スタッフに助けを求めにきた子どもに、仕入れの仕組みについて説明すると、早速「銀行」にいって借金をしてきて、これを元手に「工房」から商品を買い付けにいきます。そうして仕入れた商品をいくらで売ればいいのか。値付けにも試行錯誤。だんだん慣れてくると「この商品は売れないと思うから、こういうものを作って!」と自分の感性を信じて注文を付けるようにもなってきました。
ゲーム屋はゲーム屋で、子どもたちは通貨を稼いでも遊ぶための時間を惜しんで「おしごと」に熱中していて、店番はかなり暇を持て余してしまいます。しかしこたまの終了時刻が30分を切ると、持ち帰れない通貨を余らせておいても仕方ないと気づいた子どもたちが、一気にゲーム屋に押し寄せ、突如大忙しになるという現象が…!
混沌のなかからも、大人の決めたルールや口出しのない場で、自分で考えてやってみること、他の子と話し合って決めること、一緒に協力してつくっていくことを体験できたようです。
子どもたちが残していったもの
もちろんすべてがうまくいったかというと、そんな訳ではありません。
当初、有志参加としていた市民ミーティングは、参加を呼び掛けても参加率は全体の5~10%程で、「えー、話し合いなんておもしろくない」とはなから毛嫌いしている子も見受けられました。市民としての参画・シティズンシップ精神についてどう考えていってもらうかは、今会期中に十分に機会をもてたかというとまだまだ反省が残ります。
木工と裁縫の工房では、時間を忘れてものづくりに熱中する子どもたちの姿が見受けられたものの、作ることに夢中になり「商店に仕入れてもらう製品をつくっている」という意識からはずいぶんと遠かったのも事実です。銀行の窓口業務では、紙幣の数を確認するということはなく、来た人の言うとおりにお金を渡している場面がありました。そんなちょっとした場面において、大人スタッフがどこまで介入すべきか、子どもたちなりに自分で考えたり感じたりしてもらうには、どうしたらよいかは、試行錯誤の連続でした。
しかしそれでも、事前には予想だにし得なかった、大人の想像の枠を大きく飛び越える「子どものもつ創造力」を感じる数々の場面に触れたのもまた事実です。そしてそんな彼ら彼女らが「来年も来るからね!」とニコニコと去っていく後ろ姿に、自分たち大人ができることは、たとえどんな形になっても、来年もまた必ず開催することだと思わされたのでした。そしてもうひとつ、彼らが「こたま」の会場から出て生きる「リアルの街」においても、こんな風にイキイキとした表情で過ごせる日々をここ多摩市で保障されることを同じ街の大人として願うばかりです。【了】
文責:山下ゆかり
【注釈】
*多摩市でのはじめての開催となった「こたま2017」。地域の小中学校に約3000枚のちらしを配布したものの、なんら後ろ盾のない市民有志スタッフで準備してきたため、「本当に子どもたちは来てくれるのだろうか?」という不安を抱えたまま迎えた当日。しかしそんな杞憂をよそに、開場前から並んでくれる女子組や、10人近くクラスメイトと連れ立って来てくれた学区外の小学生たちなど、結果的に2日間でのべ100名近くの来場となった。
*日本でここまでの広がりを見せたのは、ミニミュンヘン研究会の広報活動の貢献に依るところが大きい。http://www.mi-mue.com/