西国分寺駅から歩いてすぐ、1階にあるクルミドコーヒーの看板と4階のテラスから覗いている豊かな緑が目印の建物がある。マージュ西国分寺(以下、マージュ)だ。
今年で4年目を迎えたマージュは、「9つの住戸」「3つのSOHOスペース」「1つのカフェ」「4階のコモンスペース」の4つの要素で構成されている。「住む」に「働く」や「お店」が加わることで、オリジナルなコミュニティが生まれている。
今回は5名の居住者から4階のコモンスペースで話を聞くことができた。
マージュの特徴
マージュの9つの住戸にはそれぞれ水廻り(浴室・トイレ・キッチン)が用意され、プライバシーはしっかり確保されていている。それに加えて、4階に共用のキッチン・ダイニング・ランドリー・テラス等のいわゆるコモンスペースがある。
建物のハード面ではコレクティブハウスに似ているが、コモンミール等の家事の共同化や自主管理が行われているわけではない。しかし、ファミリーで住める住戸もあり、比較的多世代の居住者が集まっていて、コモンスペースを中心とした、マージュオリジナルのゆるやかな関わりのあるコミュニティが存在している。
マージュのもう一つの特徴として、1階にあるカフェ、クルミドコーヒーとの関わりが挙げられる。まず、一つの住戸スペースがクルミドコーヒーの事務所となっており、スタッフがマージュのコモンスペースでお昼ご飯を食べたり、居住者の月一回の定例会に参加することもある。クルミドコーヒーのスタッフの中にマージュの居住者もいるそうだ。
現在ファミリーで住んでいるNさん一家の入居のきっかけは、「元々近くに住んでいて、クルミドコーヒーが気に入り家族みんなで来ていた。こどもは同級生がマージュに住んでいて入居前にコモンで宿題をしたこともあった。その同級生の家族が引っ越してマージュに空きができたことを知り、入居を決めた。」とのことで、マージュとクルミドコーヒーの関係性を示す一例である。
関わりのある生活
建物ができる前のワークショップから参加し、最初から住んでいるKさんは、「他の人とも関われる所に住みたいと思い、そういう住まいを探していた。」そうだ。では、実際にマージュではどのような「人」との関わりがあるのだろうか。
まず、挙げられるのは月に1回の定例会である。この会には居住者だけでなく、オーナー、SOHO使用者、クルミドコーヒーのスタッフも参加し、1~2時間話し合いが行われる。欠席する人が事前にメーリングリストで議題を流すことはあるが、基本的に議題は当日出し合っているそうだ。最近は、震災対策として何をマージュに備蓄したらいいかを何回かにわたり話し合っている他、コモンスペースの使い方等が議題の中心になっている。
また、4階のテラスにある屋上緑化・菜園の管理のために、居住者の有志が作った緑化委員会があるが、中心だった方が退去されたこともあり、どのような仕組みでテラスを管理していくかについても話し合われているそうだ。
では、居住者は定例会の存在をどのように捉えているか。
「コレクティブハウスのようなコモンミールはないから他の居住者に会える機会」
「定期的に話し合いを積み重ねられている」
「言い合える時間を共有していることがよい」
「公の場で意見を言い合えるのはよい」
というように肯定的に捉えている方が多い。
このような意図された場以外にも日常の生活の中でコモンスペースを舞台にした日常のゆるやかな関わりもある。例えば、
「コモンで何か作業をしている時に、やって来た人と話をする」
「コモンにあるランドリーを使いに来た時やその待ち時間にバッタリ他の居住者に会う」
「単身者用の住戸のキッチンは狭いので、コモンの広いキッチンを使いに来る」
などの話を聞くことができた。
また、コモンスペースの一つ上の階に住んでいる小学生の男の子は、コモンスペースのことが気になるらしく、人の気配がするとコモンスペースに下りていき、あいさつをして戻っていく。こどもにとってもコモンスペースの存在感は大きいようだ。
ハウスのイベントとして、毎年建物が完成した5月30日前後に開かれるパーティーや忘年会、節分に恵方巻きを食べること等がコモンスペースを使って行われている。
3月11日の震災の後3~4日間は、コレクティブハウスと同じように、マージュでも誰かが食事を作り、仕事が休みだったり早く帰ってきたりした人たちみんなで食事をし、計画停電の時にはコモンスペースに集まることができて安心感があったそうだ。
このようにコモンスペースがあることによって、居住者同士のゆるやかな関わりが誘発されていることが分かる。
家族の周りにマージュがある暮らし
オーナーの叔母でもあるMさんは「みんなが住みよく住んでほしい。何かの時には助け合いたい」と話してくれた。ゆるやかな関わりのある中で、それぞれの居住者が自分のペースで暮らそうという思いと同時に、ゆるやかな関わりが保てていれば非常時には助け合えるという安心感があるようだ。
Fさんは「ブランチ会をまたやりたい」と話してくれた。何度か休日の午前中に集まれる人がコモンでブランチを食べたことがあるそうだ。定期的に開催されるまでは至ってないようだが賛同者はおり、今回のインタビューの場でも参加したいという方もいた。
Kさんは「マージュに暮らしていてよかったなと思う時間を作りたい」とのことだ。これまでの例として挙がったのが、居住者の有志で行った温泉旅行。(通称、マージュ旅行)この旅行、同じ建物に住んでいながら現地集合だったそうだ。ファミリーもいれば単身者もいる、年代のちがいもあり、それぞれのペース、移動手段で行った方がいいということでそうなった。現地でも常にみんないっしょではなく、自由行動の時間もけっこうあったとか。ほどよいゆるやかさを持ったマージュをよく表した例だと感じた。
ファミリーで最近入居したNさん(奥さん)は、「家族があり、その周りにマージュがある、そういった暮らしが楽しみ。お互いにいろんなことを膨らませたい」Nさん(旦那さん)は「こどもが多様な人の中でどう育つかが楽しみ」と話してくれた。子育て中の方にとっては、コレクティブハウスと同様に、多様な人の中での暮らしを魅力的に感じていることが聞けた。
コミュニティの濃度で暮らしを選ぶ
この記事のライターはコレクティブハウスの居住者であり、以前からマージュのコミュニティの様子が気になっていた。コレクティブハウスはコモンミールや日常的な活動グループもある。人によって関わり具合の調整はある程度できるが、全体的に見ればコミュニティの濃度はそれなりに濃い。
マージュの場合はどうか。月一回の定例会以外にはコモンミールや決まった日常的な活動は明確にはない。しかし、濃度は薄めかもしれないが定例会やコモンスペースを接点とする関わりを持つことで、居住者は“マージュ西国分寺”というコミュニティを意識しているようだ。
濃いコーヒーが好きな人もいれば薄めのコーヒーが好きな人もいる。住まい手がそれぞれの好みや状況に応じてコミュニティの濃い薄いを選べるといいのではないか。そのためにもゆるやかな関わりの中でシェアする暮らしができるマージュのような暮らしの場ももっと増えてほしい。そう感じた。【了】
文責:高取正樹