東京都足立区のつくばエクスプレス「六町」駅から徒歩7分の場所に畑つきエコアパート「花園荘」はあった。残念ながら六町駅周辺の区画整理事業が花園荘のあるエリアまで進み、解体されることが決まった。解体工事が始まる直前の今年のゴールデンウィークに、花園荘の最後の見学会に参加する機会を得た。建物はなくなってしまうが、このエコアパートの記録をシェアする暮らしのポータルサイトでも残したいと考え、お聞きした大家の平田さん親子、建物を設計した建築家の山田さんのお話を基に、レポートとしてまとめることとした。
<畑つきエコアパートの誕生まで>
花園荘が誕生したのは9年前。元々建っていたアパート(初代・花園荘)の老朽化に伴って建て替えを考えるにあたり、大家の平田さんは周辺にできていくワンルームマンションを見て、「ただ寝るだけの住むのに優しくない家」だと感じたという。その思いと平田さんを中心にNPO足立グリーンプロジェクトの活動として行っていた区画整理事業予定地での「六町エコプチテラス」というコミュニティガーデンの経験が合わさり、「畑つきエコアパート・2代目花園荘」の構想が生まれたという。
<建物に込められた思い>
建物は東京の木材を使用した木造2階建ての4軒長屋で、いずれもメゾネット形式で1階には土間連続するダイニングキッチンと水廻り、2階には寝室が2室という構成の住戸に専用の畑がついていた。あえて「nLDK」で表す場合は、『2DGK』と表記した。『G』とはガーデンのことで、「ガーデンが普通に不動産屋さんで紹介されるような時代になればいいね」という思いが込められているそうだ。
専用の畑はそれぞれの住戸の南側にあり、玄関へは畑の間を通ってアクセスする設計になっていた。そのため、居住者は自分の畑と隣家の畑を眺めながら外出、帰宅する。これはお隣さんが農作業をやっている時に声をかけたり、育てている作物等が共通の話題になったりように、という意図を込めたそうだ。玄関は畑と連続した土間空間になっており、農作業スペースとしても使えるようになっていた。
家の中は、床と天井に杉の無垢材が用いられたり、2階には木製デッキのベランダがあったり、木の雰囲気がふんだんに感じられた。南面した玄関横の土間には太陽光がよくあたり、冬季は蓄熱効果が期待できる設計になっていた。その他にも切妻屋根に太陽熱を集熱して住戸に導く仕組みや、屋根に降った雨水をためるタンクを畑の脇に設けるなど、環境配慮の仕組みを備えたエコアパートとなっていた。
<畑とコミュニティのある暮らし>
建物の管理は管理会社に委託するのではなく、大家の平田さん自らが行っていたという。平田さんのご自宅も花園荘の隣にあるため、日常的に大家さんと花園荘の居住者が関わりあえる環境にあった。花園荘と平田さんのご自宅の前には広場的なスペースがあり、そこに面してブドウ棚がつくられテーブルとイスが置かれていた。さらには居住者みんなの賛成でピザ釜も作られた。その広場を舞台にみんなでピザを焼いたり、バーベキューをしたり、ゴーヤ祭りなどが行われたりしたという。大家さんから居住者への日常的な声かけやピザ等をみんなでいっしょに食べるということが花園荘のコミュニティ形成に大きな役割を果たしたそうだ。
そうした中で居住者同士でもそれぞれの菜園の収穫物を他の居住者に配って感想を聞きあったり、農作物の種を一緒に階に行ったりする光景も見られたそうだ。見学した時点ではすでに居住者の引越しは終わっており、畑の作物も片づけられた後だったが、残された植栽等から緑豊かな畑を中心に心地よいコミュニティがあったことが十分に想像できた。それは、9年間ずっと住み続けていた方が2軒おり、仕事の都合等で入れ替わりのあった残りの2軒も出る居住者が次の住まい手を紹介するなどして空室期間がほぼなかったことからも分かる。
<3代目・花園荘への期待>
「畑つき」というコミュニティを誘発する仕掛けを持ったハード(建物)と共に、ソフトの面で大家の平田さんがコミュニティを引き出すことで育まれた心地よいコミュニティを持った畑つきエコアパート「2代目・花園荘」は残念ながら終わりを迎えたが、大家の平田さんはいつか3代目の花園荘をつくる構想を持っているそうだ。その構想が動き出す日を楽しみに待ちたい。 【了】
(文責:高取正樹)