「所有」から「循環」へ  〜服の物々交換パーティー「xChange」

 

皆さん、着なくなった洋服をどうしているだろうか?

誰かに譲る?フリーマーケットやオークションで売る?はたまた、捨ててしまう…??

 

実は、「日本人は年間10kgの服を買い、そのうち9kgを捨てている」という統計があるのだそうだ。新しいモノを持つ、モノを買うことの価値って、どういうことにあるんだろう。逆に、持たない、買わないことで得られる何かもあるんじゃないか――。今回は、そんな「所有」という考え方をあらためて捉え直すべく、着なくなった洋服やファッションアイテムを物々交換するパーティー、xChange(エクスチェンジ)を主催してメッセージを発信し続けている丹羽順子さんを、東京・渋谷ヒカリエの会場に訪ねた。

 

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元の持ち主の思いとともに服もめぐる

 

xChangeは、2007年9月に第1回が開催された後、徐々に全国各地に広がり、これまでに開催回数約150回、参加人数のべ10万人以上、交換アイテム数50万点以上、交換されたファッションアイテム約55トン(1点700gとして換算)にのぼるイベントとなっている。この2013年春には、J-WAVEとの共催で、アースデイ東京や渋谷ヒカリエでも大規模に開催された。


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この活動の仕組みはいたってシンプルで、「みんなで洋服やファッション小物を持ち寄って、物々交換する」というもの。「誰も損をしない、誰ももうけない」というコンセプトで、参加はすべて無料。お店のようにきれいに並ぶアイテムの中から、気に入ったものを持ち帰る。特徴は、持ち寄る一点一点にエピソードタグを書いて付ける、ということだ。タグは、そのアイテムにまつわる思い出やメッセージを伝えるもの。例えば、こんなコメントがつけられている。

 

「妊婦の頃によく着ていました。安産だったので、これを着る方も安産になりますように」

「刺繍がきれいなカーディガン。暖かいので、これからの季節にお役立てください」

「主人が、私との初デートのために購入した物だそう。ぜひデートにどうぞ」

 

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こうして、モノだけではなく、その背景にある、元の持ち主の思いやストーリーも受け取れる、というところが何ともあたたかい。単なる物々交換ではなく、「今、自分の手元にあるモノの、これまでにめぐってきた道、このあとめぐっていく道を想像し、思いをはせる」仕掛けだ。

 

「循環」をコンセプトに掲げるxChangeは、集まった洋服は、すべて必ず循環させることにしている。xChangeで残った服がある場合、「国内循環古着プロジェクト」に送付→厚木市「晴れ屋」の店舗内xChangeブースへ出品→それでも残ったものは、海外で古着として販売、もしくは国内でレインボー手袋に再生させる、という徹底ぶりだ。

 

浪費をせずにモノを大切にできる、お金に依存しないで価値を交換し合える、目に見えない誰かの思い出や人とのコミュニケーションがある――。そんなxChangeだからこそ共感を呼び、数年間日本全国で回を重ねてこられたのだろう。

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農薬、化学物質、児童労働… 

いくつもの犠牲 の上に成り立つ服

 

そもそも丹羽さんが、xChangeを主催し始めたきっかけは何だったのだろう。

それは、持続可能な社会作りを学ぶために通っていたロンドンの大学院での2003年のこと。「世界の農薬の4分の1は綿生産に利用されている」「服に仕立てる各工程では、大気や土壌に悪影響を与えかねないシリコン製ワックス、石油製の研磨剤、柔軟剤、重金属、抑制剤、アンモニアなどの化学物質が大量に使用される」「途上国では、低廉な賃金での過酷な児童労働が行われている」など、ファッションアイテムを取り巻く世界の現状と環境負荷を知り、衝撃を受けたという経験がベースにある。

 

「一見、華やかでかっこ良く見える洋服が、実はいくつもの犠牲の上にできているなんて、全然かっこ良くないな、って。もうどんどん服を買うことなんてできない。でも、おしゃれは楽しみたい」そんな葛藤から「じゃあ誰かと交換し合ったら?」と、2007年に東京のカフェ・バーで初回を開催したのがすべてのはじまりだった。100人以上が集まって大盛況、その後も継続的に展開していくことになった。

 

「必要なんだから、じゃあやろうよ」と本当に始めて、「喜んでもらえたし私たちも楽しいし、伝えていきたいメッセージだし、じゃあ続けたいよね」と言って、本当に続けていく軽やかさと思いの強さが丹羽さんにはある。

 

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Grow slowly, grow organically

循環しながら有機的に

 

初回から3年後の2010年には、J-WAVEや丸井、BODY SHOPなどの企業とのコラボレーション企画も増えるようになり、活動支援金を出してくれる企業もつくようになった。東京ドームで大規模に開催しないかと持ち掛けられたり、法人化の検討をしたりもするようになる中、丹羽さんは、この活動をそんなに大きくして良いものか、一体どう在るべきなのか、と迷うことになったと言う。

 

そんな時、解決の糸口になるヒントとなったのは、相談をした思想家、サティシュ・クマールさんの“Grow slowly, grow organically.”ということばだったそう。「そうか、とあらためて思ったんですよね。xChangeって、服の交換だけしているわけじゃない。これまでの大量生産・大量消費という一方通行の社会から、ぐるぐる循環する新しい社会に変わっていくことを提案しているんだから、急がずに有機的に広げていくのがいいよね、って」

 

貨幣経済の仕組み、消費の仕方、人やモノとのつながり方…いろいろな面で、次の社会の在り方をメッセージしているxChange。であればこそ、お金を生むビジネスとしてではなく、つながりを大切にしながらゆっくり広げて、お金ではなくアートを創り出すような感覚で続けていこう、と。そんなふうにして、丹羽さんは活動の軸になる考え方を固めていった。

 

会場規模が大きくなるほど、周囲への配慮を欠く参加者も混じってしまう、というジレンマもある。「友だちの友だち」くらいの距離感のほうが、自分の服を誰かが手に取ってくれる場面に出会えたり、コミュニケーションが生まれやすかったり、服のクオリティ担保ができたりするメリットもある。“grow organically”を実践しようと思うと、ある程度の規模に押さえ、小さなコミュニティで数多く開催していくほうが、結果的にめざしたいことに近づくのかも知れない――。そんなふうに、直面する現実の前に立ち止まり、悩み、考え、一つ一つ結論を出しながら、育ててきたことの積み重ねがxChangeの今である。

 

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xChangeを開いてみませんか

 

xChangeは特にコピーライトを取ることもせず、身近なコミュニティでの自主開催を推奨している。これまでの150回の開催のうち、実に約80%は自主開催だという。地域や年齢層、コミュニティによって、持ち寄られる洋服のテイストもやり方もそれぞれ。最近では、地域活性イベントとして開催されることも増えているという。住人同士が利害関係のないところで仲良くなれる、地域コミュニティをつくる一つの手段になる。

 

2012年には丹羽さん自身がタイに移住したこともあり、最近の主催イベントは年に2回ほど。コンセプトを分かりやすく発信して認知度を高めるため、という位置づけで、あくまで「考え方を提供する」という立場だ。「物々交換って原始的なやり方だし、特に目新しいわけではない。ただ、楽しく、しゃれたやり方にして、目指していることの背景を説明することで、参加してみたい!って思ってもらえればOKだと思うんです。もう皆さんどうぞご自由に楽しんで下さいね!」(丹羽さん)。この姿勢そのものも、サスティナブル(持続可能)な、無理のないスタンスだ。

 

実際に以前、大学ゼミのメンバーと自主開催をしたという田尻可枝さん(明治学院大学国際学部国際学科辻信一ゼミOG)たちにも話を聞いた。丹羽さんが語るエシカルファッションの講演を聴きに行ってxChangeのことを知り、「おしゃれはしたいけれど、洋服ばかりにお金をかけられない学生にとっては最高の仕組みだな!」と思ったのだという。

 

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そこで、大学構内でファストファッションとの対比をプレゼンしながらファッションショーを開き、大学近くのお寺で、コーディネイトからモデル、メイクまですべて自分たちの手で作るショーを開催。一番嬉しかったのは、ショーを見た学生から「今日ユニクロに行こうと思っていたけれど、考え直した」というコメントを聞いたことだそう。田尻さん自身も「色々なおしゃれが楽しめるし、自分では買わないような服にも挑戦できる」と、洋服はもう買わない生活なのだとか。すべての自主開催はこんな風に、「いい考えだな、やってみよう!」と思った誰かの思いから始まっている。自主開催の推奨が、“grow organically”を表しているとも言えるだろう。

 

 

「シェアする暮らしは世界を救う」と言っても過言ではない

 

2007年9月に始まったxChangeは、もうすぐ6年を迎える。「もうね、世界と分断されて自分たちだけが良ければいい、という時代にはいられなくなっていると思う。みんなどこかで本能的につながりたいっていう欲求があるし、そういう思いが少しずつ出てきているから、人間の本性にこれから戻っていくんじゃないかな」と語る丹羽さんに、今後やっていきたいことを聞いてみると…。

 

「xChangeの活動としては、ファストファッションのメーカーとコラボレーション開催してみたいですね。どんなにリーズナブルな服のブランドでも、すぐに捨ててほしいと思っているわけではない。2013年春のアースデイでは、ビームスのスタイリストさんにコーディネイトの提案をしていただいたら、やっぱりすごく素敵で盛り上がりました。そんな風に、おしゃれの幅を広げる楽しみを提案できれば、ファッション業界にとってはプラスになるはず。企業としてのメッセージを伝える意味で、売上が落ちてもファンを増やすぐらいのつもりで取り組んでいただけたらいいですね」(丹羽さん)

 

また、xChangeという枠を超えて「シェアするライフスタイル」という点でも気になることがあるという。物々交換やルームシェア、カーシェアリングといった、いわゆる「共有する」ライフスタイルを「コラボレーション消費」と呼ぶが、この消費スタイルへの移行は、産業革命に匹敵する程のインパクトだと言われている。丹羽さんも「私ね、大げさでも何でもなく、本気で、シェアする暮らしは世界を救う、と言っても過言じゃないと思っているんです」という。

 

しかし実際には、airbnb(カウチサーフィン)やZipcar(カーシェアリング)など、海外では浸透しているシェアサービスでも、日本ではなかなか広まらないのが現実。もっと「シェアする仕組み」が広がるといいのに、どうして日本ではこんなに難しいのか――。「この難しさについては、関係者で集まってパネルディスカッションするイベント企画をしたいくらい!」という。

 

xChangeというネーミングには、x(エクス)=どんなものでも、目に見えない心で感じるもの、ライフスタイル、経済、社会、世界…を、Change=変えていこうよ、というメッセージを込めている。そしてx(エクス)はよく見ると∞(無限大)を表現するロゴマークになっているのだ。

 

誰かから譲ってもらう、モノを大切に使う、お金に頼らず人に頼る――。そんな「交換し合う」暮らしのエッセンスを取り入れること、自分のライフスタイルや考え方を何か少しずつでもChangeさせること、そのプロセスの中には、新しいよろこびや発見がきっとあるはず。xChangeを楽しむ丹羽さんと、一緒に楽しんでいる参加者の皆さんの様子が何よりそれを物語っている。【了】

(文責:村上 智子)

 

村上 サトコ

村上 サトコ

NPO法人コレクティブハウジング社サポーターズ会員。フランスの農家、知人宅を約1年わたり歩いて暮らして帰国後、シェアハウスに居住する。手ざわりのあるコトやモノに吸い寄せられる傾向があり、最近は玄米麹の味噌を仕込んだところ。 「シェアする暮らし」について 生きることは、シェアすることなんですよね。目に見えるものも見えないものも、近くのいのちも遠くのいのちも、持ちつ持たれつ、つながりつながれ。

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