コレクティブハウスかんかん森(以下、かんかん森)は、NPOコレクティブハウジング社(以下、CHC)が初めてコーディネートをした、日本初の本格的な多世代型コレクティブハウスである。2003年6月から居住が始まり、今年で8年が経過。2006年12月からは、かんかん森に暮らす居住者有志で立ち上げた株式会社コレクティブハウスが入居者募集などを行っている。
かんかん森はCHCが手掛けた4つのコレクティブハウスで最も長い歴史を持ち、規模も一番大きい。現在はシェア用住戸を含め32戸のハウスに41名(うち子供7名)の方が暮らしており、日暮里コミュニティという建物の2、3階に位置している。
日曜日の夕方、コモンミール*の料理の音を聞きながら、男性・女性、単身の方・子育て中の方、最近入居された方・長く住んでいる方など、背景が多様な5名の居住者の方にかんかん森での暮らしについてお話しをお聞きした。
子育てをしながらコレクティブハウスに住むメリット
かんかん森は2年ほど前の一時期、居住者の入れ替わりの中で子供がいなくなった時期が数カ月あったが、1年ほど前から徐々に子育て世帯が加わり、現在は4兄弟を含めた7人の子供たちが暮らしている。
まずは子育て中の方お2人にお話をうかがった。
「最初は人見知りをして、一言も話さなかったが、最近はみんなになついてきた。今は親も楽だし子供も楽しそう。自分の家以外に子供の遊び場もあるので、子供も気分転換できているようだ」
「よく泣く子だったので、ここに住んでいなければ子育てに煮詰まっていたと思う。子育てやベビーシッター経験のある方もいるので、仕事が忙しいときに誰かに見てもらえることが助かる」
2人ともコレクティブハウスならではの利点を活かして子育てをしている様子。
次に単身の方3名に、身近に子供のいる生活についてお聞きした。
「ハウスに子供がいなかった時期も経験しているが、大人だけだと殺伐とすることもあった。子供がいると雰囲気がよくなる」
「子供の泣き声も聞こえることがあるが、知っている子なので気にならない」
「他の人の子どもだけど、成長を見られて楽しい」
「大人の方が子供からもらうものが多い」
というように、単身の方も子供のいる生活をプラスに捉えているようだ。
退去した元居住者も、子供を連れて遊びにくることが結構ある。かんかん森設立当初に暮らしていた子は、今はもう小学校の高学年。当時から住んでいる居住者にとっては、その成長を見られることが楽しみになっているそうだ。
地域や元居住者との関わり
かんかん森では年に一度、設立記念日に合わせてパーティーを開催している。参加者は居住者以外にその友人やコレクティブハウス関係者、そして元居住者にも声をかけ、かなりの人数が集まる盛大なパーティーとなる。食事はコモンミールの経験を活かし、すべて手づくりで用意するそうだ。
このような催しもあるお蔭で、退去した人も遊びに来られる雰囲気があり、実際にちょこちょこコモンミールを食べにくる人もいる。当然、居住時期が重なっていない現居住者と元居住者もいるが、そういう人同士が仲良くなることもあるそうだ。
また、春と秋に行われる日暮里コミュニティのお祭りにかんかん森も参加し、コモンスペースを使ってカフェを開いている。そこに、同じ建物内のシニア住宅や地域の方がやって来る。そうやって地域の方との関わりもある中での暮らしが営まれている。
多様性の中で暮らすメリット、課題
かんかん森のコミュニティは、老若男女、単身世帯・子育て世帯というコレクティブハウス共通の多様性の他にも、年数が経ち、居住歴の長い方・短い方という違いも出てきている。そこに、元居住者や地域の人達が加わり、より豊かな多様性のあるコミュニティができている。
そんな、多様性に富んだかんかん森での暮らしについて伺った。
「同世代が集まるというより、気の合う人同士が多世代でコモンに集まっている」
「世代間を超えたつながりがいい」
「人数が多いため、一人で孤立することがない」
「同じ建物内に知っている人がいて安心」
「退去した人も気軽に来られる雰囲気がある」
「こういう環境で育ったらどんな子に育つのか親として楽しみ」
多様性に富んだ環境のメリットを享受する人が多い一方で、以下のような課題も出てきた。
「長く住んでいる人もいれば最近住みはじめた人もいて、入居時期も多様。そのため共有できている事が少なくなっている」
「これまでやってきた事について、新しく入居した人になぜそれをやるのか、うまく説明できないことがある」
「決まり事として明文化されていない暗黙知的な部分をどう説明するか、工夫が必要だと感じている」
「コモンによく出てこないとわからないこともある」
「人数が多いため、全員のコンセンサスを取るのが難しい面もある」
このような課題について、居住者は決してマイナスとして捉えられている訳ではない。
実際に、今後の暮らしについて以下のような話も聞けた。
「義務感が大きくなり、良さを凌駕してしまうとよくないので、バランスをうまくとっていきたい。多世代みんなにとって住みよくなるか考えてきたい」
「暮らしのソフトウェアを更新していきたい。高齢者、子育て世帯の暮らしやすさを考えていきたい」
「住んでみてわかったこととして、途中から入居した人が多くなってきている。できた当初の思想を大切にしつつ、今住んでいる人たちで調和のとれた暮らしを考えていきたい」
多様性のあるコミュニティの良さを実感した上で課題を共有し、その時々の状況でさまざまな暮らしの仕組みを調整しながら、より良い暮らしにしていこう―。そんな共通認識が伺えた。
暮らしの仕組みは少しずつ調整
実際に、これまでもいくつかの仕組みを調整したり、これから調整しようとしたりしているそうだ。
その具体例をいくつか聞くことができた。
コモンミールは、平日に半休を取って作る人もいるような時期もあったそうだが、現在は仕事が忙しい人が多く、平日の夜にコモンミールに入ることが難しい場合も多いため、土日にブランチで入ってもOKとした。
かんかん森はできた時から自主運営・自主管理をひとつの理念として暮らしてきた。コモンスペースの自主清掃もその一つ。その理念の根本は変わらないが、最近になって共用部の一部の清掃を、外部の業者に委託することを始めたという。
かんかん森は共用部が広く、居住者だけで分担して清掃するには負担が大きいという意見が挙がり、定例会で話し合い、外部委託を試してみることにしたそう。
また、一時期ハウスから子供がいなくなったこともあって、現在は単身世帯中心の仕組みになっている面があるため、子育て世帯が暮らしやすい仕組みに調整する必要性を感じている、との声も単身の方からあった。
コミュニティの持続に向けて
かんかん森ができて8年。
賃貸形式ということもあり、設立当初から居住者もだいぶ入れ替わり、コミュニティは時々刻々変化し、より多様性を持つようになってきた。
設立当初から現在まで、ワークショップや居住者組合の定例会などでさまざまな話し合いを行い、暮らしの仕組みができてきた。しかし、その仕組みは恒久的なものとはならないようだ。
今回お話を聞いた方々は、居住歴が長い人から最近引っ越してきた方までさまざま。そういった中で、みなさんの口から表現は違えども、
「その時その時で住んでいる人たちによって考え方や暮らしやすさも違うので、暮らしながら何がいいか考えていきたい」
というように、変化をしつづけることがコミュニティの共通認識となっている。
多様性のあるコレクティブハウスのコミュニティを持続していくための秘訣はそこにある。そう感じた1日だった。【了】
文責:高取正樹
(編集後記)
「多様性のるつぼ」という言葉。
私自身、別のコレクティブハウスの居住者だが、かんかん森は居住者の人数が多く、年数も経ているため、多様性の範囲が断然広い。
できてから2年半が経つ私の住むコレクティブハウスでも、コミュニティの変化が徐々に話題に上り始めている。
かんかん森ではその変化がスケールの大きい状態で既に起こっていて、それに対応すべく居住者それぞれが色々なことを考えている。そのことを今回の取材で実感し、かんかん森というコレクティブハウスの先輩の存在に安心感を覚えた。
各コレクティブハウスでは、今後それぞれの特徴に応じた様々なコミュニティの変化が起こると思う。かんかん森という先輩の例を参考にさせてもらいつつも、自分たちからも何か伝えられるように、コレクティブハウスの居住者間の交流を深めていきたい。そのことが、コレクティブハウスのコミュニティを持続させていくことにつながると強く感じた。