(第1回からの続き)
大きなものと小さなもの、鳥の目と虫の目をどうブリッジさせるか?
影山:これは僕自身の悩みで、よく考えるテーマでもあるんですけど。僕は今カフェをやって、国分寺から新しい風を吹かせられないかと思ってるんですけど。片や、世界中で、日本で、大きなシステムの中で、いろいろなことがうまくいっていないことは感じています。今は、大きなシステム自体を変えることからあえて目を背けて、ローカルからやっていく選択をしているんだけど、本当にそれでいいのかと。
カフェ以前の仕事の経験値も作用して、鳥の目、虫の目、両方を大事にしたいと思っているんですけど。今、自分は虫の目からやっていて、果たしてそれでいいのかっていう。大きなものと小さいもの、佐藤さんは、どんな風に考えていますか?
佐藤:そこは自分にとっても、大きなものと小さなものをどうブリッジさせるかが今後の一番の課題なんだろうなと。自分がやっていきたい部分でもあるんですよね。グローバルに考えれば考えるほど、このままやっていても多分いい方向には動かないんだろうなと。いろんな立場の人たちが、きっと争う方向に、どっちも正しい、という状態に陥ってしまうと思うんですよね。きちんと合理的な考えやシステムがそれぞれにあるので。
影山:例えば、エネルギー政策の中で、再生可能エネルギーの割合を高めていくべしという議論を持ちかけたいと思っても、化石燃料や原子力をやっている人にも、それはそれでロジックがあるということですよね。そこですでに関係者の生活や経済が成り立っている面もあるわけですし。
佐藤:そうですね。国の発展段階によっては、一時期、化石燃料や原子力でブーストする必要があるという考えの人たちがいて、でも地球全体の環境の中ではそれ間違っているという人たちがいて。でも両者が議論するなかで、どうやって合意していくかが難しくて。国際的な合意で変えようとすると、法的拘束力がないので、どうしてもボランタリーになってしまう。そこが国同士でやることの限界だと思うんですよ。
資源の争いが現実的にいろんなところで起こっているし、そういうのが先鋭化すればするほど、人同士のストレスが高まっていくし、争いもいろんなところで起きてしまうだろうし。っていうのが今起きている現状なのかなと思いますね。
それを考えると、地域地域でしか多分答えはないって思うんですよ。人間のコミュニケーションが到達する範囲はある程度限られるじゃないですか。その中では合意できると思うんですよ。常に近くにいたり、物理的に理解しなければいけないというインセンティブが働く範囲。顔が見える範囲。同時多発的に、そういうのがいろんな地域で出てこない限りは、グローバルの流れには逆らえない。それが一番の答えなんだろうなと思いますね。
影山:同時多発的に?
佐藤:そう、ポコポコと竹の子みたいに(笑)。それが、グローバルな経済とミクロの目線をつなぐ唯一の方法かなと思います。
目的地や成果を定義して、逆算していくやり方はもうやめる
影山:自分はよく、西国分寺が日本の「外れ値」になったらいいなと思っています。統計を取ると、西国分寺はいつもイレギュラーな値を示すと。
例えば、なぜかこの界隈の人たちは、再生可能エネルギーを使っている人が多いとか、あるいは社会問題に一見、直結してないようなことでも、なぜか西国分寺では缶コーヒーが売れないとか。カフェスローやクルミドコーヒーがあるからとか。
お店を使って出版や音楽のイベントもやることがあるんですけど、なぜか、西国分寺では本を書いたことがある人や、楽器を持っている人が多いとか、そういう文化をつくっていく側面も含めて。出生率がなぜか3.0とか、市長選挙の投票率が90%を下回ったことがないとか(笑)。なぜここだけ?と思われるようなことの一つの実証例になれるといいなと。
佐藤:カフェは始めてから7年半なんですね。ちょっとずつ何か動いている実感はありますか?
影山:これは自分の中に起こった変化なんですけど、僕なりの見方でいうと、世の中には問題は一つもないと思っています。もちろん、望ましくない状況、苦しんでいる人、うまくいっていないこと、そういう状況はあるけれど、それらを「問題」と呼ぶかどうかはこちらの見方ですね。そういう目線で見始めると世の中じゅう問題だらけになっちゃって、それはそれでとってもストレス。
逆に、今こういう状況があって、それをちょっとでも良い方向に持っていくにはどうしたらいいかと考えた方が、建設的に人間のエネルギーは引き出されるんじゃないかという気がしていて。例えば、今は基本的には大手電力会社から電気を買っているけど、でもここのコンセント一つだけは、太陽光で発電したものが供給されているとか。
そういう風に、加点主義的に小さな一歩、小さな変化をちゃんと評価していくというのかな、僕らなりに味わっていくというか。そうしていくうちに、気がついたら、5年後、10年後にいつの間にかガラッと変わっていたという。いついつまでに、こういうことを達成しなきゃって、目的地や成果を定義して、そっから逆算していくやり方を僕はもうやめようと思っているんです。
NPO、NGO、あるいは企業でもなんでも、組織のあり方のひとつの難しさなんですけど。その組織の理念や存在理由に縛られすぎて、その構成メンバーが、自分の気持ちをちょっと押し殺して組織に尽くすっていう選択をするのは、美談に思えるけど、その人の可能性を潰している面があると思うんですよね。
メンバーが変われば、理念も組織も変わっていいのではと思っていて。入れ替わったメンバーの思いを受け止めながら、理念自体も動的に変わって、活動範囲も自然に広がったり狭まったり、自由に起こっていけばいいなと思ってるんです。
夏の間だけの「クルミドモーニング」もあるスタッフの発意から。
この黒板絵もまた別のスタッフの創造的な仕事だ
佐藤: それはありますね。そういう意味でも、グリーンピースも全体として45年くらい続いているのを見ると、いろんなところで変わってきたんじゃないかと思うんですよ。変わってこないと続かなかったはずだし。グリーンピースは今、組織的に大きく変わろうとしている時期で、もっともっと一般の人に近いところで活動しよう、というのが今の流れなんです。自分は新しいグリーンピースが生まれるのに期待している、という感じです。
命と地球の法則に合った組織論
影山: 僕は、組織論や経営論が、根本的に変わる時期に来てるんじゃないかという気がしています。これまでの組織論や経営論は、工学的に語られてきたと思うんです。例えば、目的や目標を定めて、いつまでにこういう結果を実現したい、そのためにどういう資源が必要で、じゃあこういう戦略で、と逆算して発想していく。車を作ることに似ている。
でも、それが行き過ぎると、それで結果は出たかもしれないし、社会は変わったかもしれないけど、そこに参加している一人ひとりは不幸になったってことになりかねない。車を作るように組織や社会変革活動が組み立てられていた時代から、もっと生命論的にやるやり方はありやしないのかと思うんです。
フランス語で、ブリコラージュっていう言葉があります、冷蔵庫の中に入っている食材を見て、こういう料理が作れるね、と組み立てていくような工夫、知恵をそう呼ぶそうです。僕らが、西国分寺の駅前でお店をやっていて、こういう人たちが働いていて、こういうお客さんが来てくれていて、周りこういうお店があってっていう。この置かれた環境や状況をうまく受け止めて、伸ばすべき方向に枝を伸ばしていけば、最終的には何らかの形になっていく。そういうやり方のほうが、命にあっているんじゃないかと思うんです。
でも、僕がいつも考えているのは、小さいひとつの特殊な、幸福な事例として終わってしまうのは嫌だなと。それを組み立てている根本原則、システムへの目線も持っておいて、なぜこれが成立しているのか、これのいいところと悪いところは何かと言語化できるからこそ再現性が生まれたり、今のシステムとの対比もできるっていう。そうやって工学部的じゃないやり方で、社会や組織をつくることができやしないかというのが、今の僕の一つの問題意識なんです。
佐藤:組織の役割ってどんどん小さくなっていくんでしょうね。個の集まりの方がはるかに強い気がします。まさしくおっしゃられたように、生態系や地球のそもそもの法則に合ったやり方の方が、最終的に生き残るんでしょうね。小さくてもそれが良ければ、種の保存の法則で、残っていく。でも、古くなったものを無理矢理残そうとしているものが、四半期ごとの利益を得るために、旬とかピークをつくるやり方だと思うんですけど。
影山:大量に作って大量に捨てていくやり方ですね。
佐藤:流れの中で消えていくこともよし、とするやり方、本当にいいものが残っていくというプロセスを経ていくのが、一番自然だし、一番人との関わりとしてもいいのかなと思いますね。多様な人がいて、多様な意見を持った人たちが集まって、初めて環境に順応していくんですよね。
影山:命に合っている。地球の法則に合っている。いいこと言った(笑)
それは、スタート時点では、ありのままを受けいれるということです。ただそこに僕は創造的な想像力が大切だなと。「ファンタジー」って言葉を僕は好きで使うんですけど。今のままでいいとも思わなくて、もっとこうなったらいいなと想い描く力はそれぞれあるはずで。
僕、エネルギーの問題にしても、マクロ的に地球環境保護や日本の安全保障の観点から、再生可能エネルギーをなんとかしたいという気持ちとは別に、東電で働いている人たちが気の毒で。他人事だから、ほっとけって話もあるけど。別の道を示してあげたら、別の形で力を発揮できる人たちを増やせるんじゃないかと、例えばそう思います。
やっぱり、すべてはTakeからGiveへの転換。
影山:不思議なもので、もともとは人の幸せ、持続的な地球環境、平和、多様性なんかの、最終的に達成したい目的があったと思うんですけど。それらを実現するアプローチの中で、組織が誰かと争うことになって、平和じゃなくなる。あれ、平和を目指してたんじゃなかったっけ?と。
佐藤:それは往々にしてありますね。
そういうのを考えていくと、GiveとTakeの考え方に戻ってくるんです。企業さんと話す時に、グリーンピースがよく言っているのは、Creative Confrontation(創造的対立)。創造力を生み出す対立をしなさい、対立のための対立はするなと。企業と話すときも、対立しに行くのでは絶対ない。でないと、ただの対立好きのNGOになっちゃう。対立するのは、あくまで問題点を洗い出すきっかけなんです。
そこで一緒に何を解決するかを考える。その時は、例えば、ユニクロさんに何をあげられるかを考えないと、向こうと合意できないんです。ユニクロさんが、有害化学物質をなくしてくれると、社会へのインパクトって本当に大きいから、じゃあ私たちがやる意味があるんですね、と思ってもらえる。応援できるところは応援します、一緒にやりましょうと、こちらが心を開かないと、絶対に合意できないんです。
影山: ユニクロの柳井さんに似ているから、柳井さんが会ってくれたんだと聞きましたが(笑)。
佐藤: きっかけはそうです。君、柳井さんの若い頃にそっくりだね、電話してあげるよ、と言ってくださった方がいて(笑)
(第3回に続く)